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良い魚に、良い評価を ~未来を見据え出口をつくる~ 小田原市編

鮮度管理徹底し魚価向上 設備充実、売り先も開拓

近年、漁業者の収入を増やすため、鮮度管理などで魚の価値を高める取り組みが全国的に広がっている。ただ、こうした取り組みを収入アップにつなげるには、買い手側から魚の価値が評価され、見合う価格を得る必要がある。そのために、漁業関係者にはどのような努力ができるのか。神奈川県小田原市と新潟県長岡市の例から考える。

 神奈川県小田原市の小田原魚市場は魚価の高さに定評がある。市がまとめた2017年度の同市場の平均キロ単価データを見ると、アジは全国主要港平均の3・5倍で、イワシやサバ類も約2倍。マダイやイシダイなどが入る「タイ類」も同市場では1279円と、マダイの全国主要港平均749円、イシダイの1116円を上回る。加えて、通常は商品価値が付きづらい低利用魚・カゴカキダイやイトヒキアジも、「ここ2~3年で魚価が2倍ほどに達している」(小田原市漁協の担当者)。

カゴカキダイ

 小田原のアジについては「旬の時期に漁獲が集中する」(同)ことが”小田原ブランド“につながっている面もある。ただ、それ以外の魚種にも高い価格が付く理由はどこにあるのだろうか。

 同漁協では00年に高橋征人組合長が就任。主力漁法の定置網などの魚に、鮮度保持のための保冷を強化した。04年には、魚の価値を高めるための設備を設置。魚体を漁場や市場で洗うための殺菌冷海水装置、魚体をサイズ別で分ける選別機、魚体をスムーズに移動させるフィッシュポンプなどで「鮮度保持やサイズ分けを徹底、継続していくうちに買受人の評価が高まった」(同)。

冷海水・選別機

 設備を入れた数年後には、イシダイの蓄養や、アジア圏への活魚輸出を開始。「イシダイの売価は、当初より3割ほど上がった印象」(同)

 1998年と13年には、急潮に強く生きた魚を入れておく「金庫網」も備えた大型定置網を新設。金庫網で魚が多く獲れた際の値崩れを防ぎ、需要の高い時期に出荷できるようになった。また、地元周辺だけでなく東京や横浜に出荷する機会も増え、イワシやサバなどの単価が上がっているという。

 小田原周辺の定置網は魚の種類の多さも特徴。高い価格が付くブリやサワラ、ヤガラなどの魚種には12~13年ごろから船上での活け締めや脱血をしており、それらの魚の単価が2~3割上がるケースも出てきた。

 小田原の定置網では低利用魚にも冷やし込みなどを行う。「ここ2~3年、低利用魚ブームや他魚種の不足などで、従来値の付かなかった魚も売れるようになってきた」(同)。「小田原の強みに、魚需要の強さもある。人口当たりの鮮魚店の数は全国平均の2・5倍。魚屋やスーパーのバイヤーには若く魚に詳しい人も多い。彼らが競うように低利用魚種を買う様子を見る」(市の担当者)。他産地で値の付かない魚種にも、売り先がつきつつある。

定置網

恵まれた魚需要も 漁協「甘えない」

 もともと、小田原は漁港から漁場までが15分程度と近く、獲れた魚はその日のうちに「朝獲れ」で近隣の魚屋やスーパーで流通。新鮮な地魚のファンが育ちやすい。加えて、周辺には伊豆や箱根などの観光地もあり「観光客向けの飲食店などで、単価の高い高級魚にも需要が強い」(同)。

 魚需要に恵まれた土地柄だが、漁協の高橋組合長は、さらなるレベルアップを目指してきた。「就任以来、組合員には『(魚は)商品』という感覚を持つよう言っている。温泉地から近く小田原ブランドもあり、かつては黙っていても魚が売れる『大名商売』をしてしまっていたが、甘えては駄目」と語る。近年は他産地の安価な魚と競合することも増え、危機感もあったという。

高橋組合長

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