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良い魚に、良い評価を ~未来を見据え出口をつくる~ 小田原市編

リスク恐れず挑戦 風通し確保し若手活躍

他地域と比べ、魚の品質の評価や価格が高い神奈川県小田原市の小田原魚市場。その背景には、鮮度管理の徹底や、高い価格を払ってくれる都市部・海外への出荷、売れ先のなかった魚種の販路開拓などがある。では、こうした取り組みの背景や、今後の展望はどのようなものだろうか。

 小田原市漁協の取り組みは買受人にも認められ、魚価のアップにつながった。ただ、高橋征人組合長は「買受人と本質的に仲がいいわけではない。生産者(漁業者)を有利にするため、よく(安値を求める立場の)買受人とは言い争う。買受人に『(高値では)買わない』と言われたら、『横浜か東京に売ります』と返す」という。遠くに出荷するとコストはかさむが、「『経費が』と言っていると前には進めない。良い魚をつくれば(かさんだ分は)回収できる」と挑戦する。

 一部の関係者からは「買受人が高齢化などで激減している。小田原の魚の鮮度を適正に評価してくれる買受人を増やすことも今後、必要では」という声もある。

 また、同漁協の出資で2018年に水産加工場がオープン。加工場では、売価のつきづらい小魚をねり物の原料用にミンチにしたり、地場産魚を三枚おろしの真空パックや干物にしたり、付加価値化を強める。

 漁協の加工品は、市が民間に建て屋を提供してオープンした、飲食店や土産物屋などの複合施設「漁港の駅TOTOCO小田原」などで販売。同施設は19年11月の開業後3カ月で、平日1日当たり平均1500人、休日は同2300人のレジ通過人数を記録する盛況だ。「今後、TOTOCOの販売ブースの充実や加工場の稼働率アップにも期待がかかる」(市の担当者)

 加えて同漁協青年部(古谷玄明部長)はウニの付加価値化にも着手。19年7月には、廃棄されるキャベツの葉とミカンの皮を餌に蓄養したムラサキウニを初出荷した。ウニが海藻を食い荒らすことで藻場の衰退やウニの身が痩せてしまう現象が起きていたが、痩せたウニを太らせて商品価値をつけるという考えだ。

キャベツウニ

若手漁業者が定着 先進取り組み続々

 市の担当者は、小田原で先進的な動きが進みやすい一因として、若い漁業者の多さを挙げる。「若い発想で、新しいことにも『まず挑戦してみよう』という積極的な雰囲気がある。先輩漁業者が若手から意見や知識を受け入れる気風もある。衛生管理など、外から助言を受けるとすぐに受け入れ、反映することが多い」という。

 事実、小田原の定置網漁業者の平均年齢は30代と若い。若い漁業者が集まる背景に、漁協側の配慮がある。「漁業者の給与は歩合制が多く、かつて小田原もそうだった。だが、漁業者側が薄給になる危険が大きく、人を募集しても来なかったり2年以内に離職したり。02年ぐらいから固定給制に変えて、後継者が増加。今では全員50代以下だ」(高橋組合長)

加工流通業者と地魚消費大作戦

 漁業者と魚の買受人の意見が合わない場面はあるが、小田原では両者が交流する機会も多い。地元の卸や買受人、漁協は「小田原の魚ブランド化・消費拡大協議会」を組織して地魚を広告。一昨年には、40代以下の若手水産加工流通業者が共に情報交換や商品開発、PRを行う「小田原地魚大作戦協議会」も立ち上がった。

 地魚大作戦の田川修三代表は「魚が獲れない、消費者が魚離れしているなど、参加者の多くは将来に不安を感じている。若い世代や観光客に、魚の消費拡大を目指したい」と意気込む。観光客が食べ歩きしやすいよう、たたいたサバを棒状に巻いて揚げた「とろサバ棒」を商品化するなど活動中。「観光客の小田原への滞在時間を延ばして、お金を落としてもらいたい。おいしいだけでなく楽しい体験ができる地域にできるよう、港でのイベントなどを考えている」(田川代表)

消費者に小田原の地魚を売り込むイベントも

 魚の価値を高める漁業者自身の努力に加え、漁業者を育て魚を売り込む漁協の努力、地元消費者や観光客などのニーズを高めようという加工流通業者の努力、全てが一体となり、”小田原ブランド“の魚価をつくっているといえそうだ。

出典:みなと新聞

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