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まだまだできることはある~地域商社「福津いいざい」~
福津市内の多様な関係者の参画を得て誕生した「地域商社」
地域商社とは、地域の優れた産品・サービスの販路を新たに開拓することで、従来以上の収益を引き出し、そこで得られた知見や収益を生産者に還元していく会社のことである。
福岡県福津市では、一次産業の後継者不足や収益性の向上などの課題を抱え、その解消とともに一次産業を含む市内経済循環の促進が求められていた。そこで、市は地域商社に着目し、2016年度から事前調査を実施し、17年度に関係団体による「検討会議」の設置、18年度に「地域商社設立準備委員会」の設立を実現した。なお、宗像漁協津屋崎支所の代表者は、検討会議や設立準備委員会の構成員であった。
設立準備委員会では、地域商社の組織形態や事業内容などについての話し合いが行われ、2018年9月に「一般社団法人 福津いいざい」が設立された。社員は、宗像漁協津屋崎支所、市内の農産物直売所である「あんずの里市」と「ふれあい広場ふくま」の各利用組合、福津市、福津市認定農業者協議会で構成されている。
法人設立の主な目的は、「福津市の農水産業と加工業・飲食業・観光業等を連動させることで関係従事者の収益性を上げ、関係する従事者の維持・増加を図ること」である。
市内水産物の流通経路の変化
福津いいざいの設立以前(2015年度実績)は、宗像漁協津屋崎支所管内にある津屋崎漁港と福間漁港で水揚げされた水産物全体の約7割が市場(福岡中央魚市場と北九州中央海産市場)に出荷されていた。一方、全体のうち13%は宗像漁協津屋崎支所の運営していた直売所「お魚センターうみがめ」(以下「お魚センター」。2019年度から福津いいざいが運営)に、5%程度があんずの里市とふれあい広場ふくまに直接販売されていたにすぎなかった。
福津いいざいは、水産物からの収益性を向上させ、漁業者の所得向上を図るために、直接販売の割合を高めることに取り組んだ。この取り組みによって、福津いいざいの設立後(2021年度実績)は、管内水揚物全体の54%が市場出荷、31%が直売所(お魚センター、あんずの里市、ふれあい広場ふくま)と直接販売の割合が高まった。直接販売による魚価は市場出荷と比べ高いので、直接販売の割合の高まりは漁業者の所得向上に結び付いている。また、市内流通の割合も増加し、市内経済循環が促進され、地産地消の推進にも寄与している。
福津市産品の市内供給拡大事業
約160の市内飲食店に、市内農水産物の取扱ニーズなどの調査を実施し、営業活動を実施した。2018年度は9店舗との取引を開始することができた。しかし、想定していたよりも飲食店との取引が実現しなかったことから、新たな事業展開として、事業所などでの予約販売やイベントでの出張販売をはじめた。
2020年からは市内全小中学校の給食への地元水産物の供給を実施している。その際に、水産物の加工が求められたが、それは福津市魚センター・魚加工場を福津いいざいが運営することによってクリアしている。
このように、市内飲食店等との取引、事業所・イベントでの販売、学校給食への供給などの実現によって、市内産の農水産物の市内供給拡大を実現しており、その取引件数および取引額は増加傾向にある。