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JF東町 養殖ブリ「鰤王」を核とした成長産業化の取り組み

現在、単一JFとして、養殖ブリの出荷量日本一を誇るJF東町(長元信男組合長)。「組合員のための組合」を基本理念とし、徹底した品質管理とトレーサビリティーで、「鰤王」ブランドを確立。

1998年には養殖魚を原料に扱う加工場として国内初のHACCP認証を取得し、早期から水産物の輸出に取り組んでいる。また、2015年にはJFとして、日本初の株式会社を設立。安定的かつ収益性の高い先駆的な取り組みを行うことで、組合員の所得向上と漁業の成長産業化を進めている。

徹底した品質管理と全量共販・周年出荷体制を確立

JF東町における養殖ブリの出荷量は、1万1129トン(2017年度)で、単一JFとしては日本一。組合全体の経済事業取扱高は310億円を超える。2009年、10年に発生したシャトネラ赤潮による大きな被害などを組合員と組合が一丸となって乗り越えてきた結果、ここまでの成果を上げることができた(詳細は「さかなびと」を参照)。

同JFが「日本一のブリの産地」となったポイントは、徹底した品質管理と全量共販出荷、周年出荷という体制を確立したこと。養殖漁業者が単独で養殖から販売まで行うとバラバラな品質になるため、同JFでは、モジャコの確保から、餌の調達、魚病対策や販売対策などを全てJF主導で実践している。これにより、約130軒の養殖漁業者がばらつきの無い均質なブリを育て、安定出荷することができるようになった。

餌は、JF東町のブランドである「鰤王」を高品質、均一化していくために、JF東町で定めた基準を基に作られた「鰤王EP」(配合された餌を加熱し練り固めた粒状飼料)と、モイストペレット用の配合飼料の「鰤王マッシュ」を使用。これらのえさは、JF東町が「鰤王」の安全性について独自に定めた「ブリ養殖管理基準書」で厳しく管理されている。

さらに2017年には国の補助事業を活用し、ICT(情報通信技術)養殖生産管理システムを導入。生産者にタブレットを渡してモジャコ導入から出荷までをリアルタイムで把握する一貫管理体制を構築した。これらにより、「どこにもまねできない安全性の保証が確保できている」と山下伸吾参事は語る。

養殖魚で全国初のHACCP認証、MEL認証を取得

加工処理施設では、少ない日で一日2000本、多い日には約2万本の「鰤王」を加工し、365日ほぼ休みなく出荷している。また、1998年2月には養殖魚の加工場において全国初のHACCP認証を取得。現在、29カ国に輸出しており、北米向けがシェアの半分以上を占めている。さらに、2018年11月には一般社団法人マリンエコラベルジャパン(MEL)協議会による養殖における生産段階認証を取得し、「鰤王」の養殖が持続可能な産業だと認められた。需給の難しいバランスを取りながら、これらの世界基準の安全性と環境衛生を含む品質管理技術に支えられ、「鰤王」の市場価値は高められた。

2013年には新たに総合加工場を建設し、前浜で水揚げされた低価格魚やフィレ加工後のアラや中落ちなどを使った商品開発を始めた。国内での販売は、これまで卸売向けの大量販売が中心だったが、個人向け市場の販路拡大に向け、「鰤王」を使った総菜や、前浜で捕れたアイゴを使った「愛胡カツ」など、消費者ニーズに沿った商品を作り続けている。

JFとして日本初の株式会社を設立

2015年にはJFとして日本初の株式会社を設立した。株式会社JFAは、「組合員の所得向上」を一番の目的としており、総合加工場で作られた商品の販売、輸出、ECサイト「長島大陸市場」の運営、飲食店事業(「長島大陸市場食堂」、キッチンカー〈現在貸出中〉)などを展開するほか、薄井漁港にあるJF東町市場の仲買権を取得し、安価になりやすい魚の購入などに当たり、浜値の高値安定を図っている。

「長島大陸市場」では、「鰤王」を中心に、マダイ、シマアジ等の養殖魚やアオサ、ワカメなど、前浜で捕れた魚介藻類と加工品を販売。このほかにも長島町で収穫された農産品なども取り扱い、WEB版「道の駅」の役割を果たしている。

また、2016年から運営する「長島大陸市場食堂」では、「鰤王」をはじめ、その日に水揚げした魚介藻類と長島町の特産品を堪能することができる。JF直営のメリットを活かした新鮮で、ボリューム感があり、かつリーズナブルな料理を目指し、全国各地から年間2万人を超える一般客が来店する。

産官連携で養殖業を核とした地域振興策に着手

このほか、JF東町では新たに同JFのある長島町と水産系企業と連携し、養殖業を核とした地域振興策を始めた。2015年11月には、旅行会社の株式会社阪急交通社と観光振興に関する連携協定を締結。昼食時に「長島大陸市場食堂」で「鰤王」を堪能できるツアーが人気を博し、同社の2016年度アンケートでは食事満足度1位に輝いた。

また、2018年11月には東海澱粉株式会社子会社の東海シープロ株式会社と養殖用マダイなどの種苗育成に着手。「長島生まれ長島育ちの魚を世界の食卓へ」を合言葉に、養殖魚のさらなるブランド化を図っていく。

JF東町では、基本理念である「組合員のための組合」であり続けるために、新しいチャレンジを続け、今後も組合員の所得向上を目指していく。

執筆:JF全漁連

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