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船は燃えた。大規模漁港火災を経てなお、次世代のために未来を想う漁師

2021年4月26日、愛媛県伊予市の上灘漁港で大規模な火災が発生。21隻もの船が消失した。漁師団体「上灘共栄網」の漁師たちは保有する10隻の船のうち、8隻を失う

漁師にとって、漁船はもっとも大切な商売道具だ。経済的な損失はもちろんだが、精神的なショックも計り知れない。火災をきっかけに廃業に追い込まれてしまってもおかしくはないだろう。

しかし、上灘共栄網に話を聞くと、不運な事故だったことは間違いないが、それをひとつの転機として、前を向くきっかけを得たという。

「息子のために。次の世代のために」

問題から目を背けず、失敗を恐れることなく進む。あまりにも絶望的な状況から今、まさに、未来に向かってポジティブに変わろうとしている、ある漁師の声を聞いた。

火災を「不幸な事故」で終わらせない

愛媛県伊予市の双海町上灘。愛媛県の中央部に位置し、海と山に囲まれた美しい景観を持つエリアだ。

上灘共栄網は、伊予市双海町の伊予灘沖で漁を行い、「煮干いりこ」や「釜揚しらす」の水産加工業を行う団体だ。組合でも法人でもない形で、昭和の時代から脈々と続いてきた。

ただ、多くの漁港と同じように漁獲量は年々減少している。上灘共栄網は、漁獲量の減少と共に、従来とは違う形で価値創出をしていかなければいけない課題を抱えていた。

そこに、組織の存続を揺るがす出来事が発生する。波止場で起こった大規模火災だ。

船が燃えたあとの様子。海に広がる白いものは大量の消火剤だ

漁港に上がった黒煙が広範囲を覆い、あっという間に波止場を火の海にした。上灘共栄網も8隻を失い、残ったのは2隻のみ。漁業経営はまさに絶望的な被害を受けた。漁師たちの日常は奪われ、チームの一員である和田直樹さんも組織の解体が頭をよぎった。

火災処理直後の心境と当時の漁師たちの様子を、直樹さんはこう振り返る。

一週間くらいかけて火災の処理をしたんです。上灘共栄網の船はほぼないし、もう漁師をやめなあかんなと思いよったよ。みんな真っ黒になりながら片付けた。若い人なんかもう3日くらいずっと泣きっぱなし。その顔を見るのが辛かった。俺は親父が残してくれた船があるけど、もしもそれまで焼けていたら漁師をやめていたかもしれない」

精神的にも過酷な状況だったが、直樹さんはこの事故を「上灘共栄網がこれまで抱えてきた問題に着手するきっかけ」と捉え直した。

「火災は決して、いい話にはならないですよ。けれど、火災以前のまま変わらずにいる上灘共栄網だったら、また別の災害のような感じでよくない結果になっていたかもしれない。そういうふうに考えて自分たちを鼓舞してきたんです」

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