ビジネス
船は燃えた。大規模漁港火災を経てなお、次世代のために未来を想う漁師
失敗を恐れない上灘共栄網に
これからどんな商品やサービスを提供していくべきか? 具体的な6次産業化への道はまだまだ模索中だ。ただ、直樹さんが上灘共栄網として伝えていきたいイメージはある。
「朝早くから夜遅くまで仕事するし、真夏の炎天下は汗水たらしながらだけど、沖ではみんな楽しそうにやっている。そういった空気感ごと伝えられる商品があったらいいと思う」

まだ企画の段階だが、旅行会社と連携して「イワシ漁を見て、食べる」までを観光の一部として体験してもらう事業も、実行へ向けて進んでいる。
「僕らはあくまでもイワシを推していきたい。なぜかと言うと、もともとは『伊予煮干し』というブランド名もあって、うちの煮干しで大きくなった業者さんもたくさんおったくらいのネームバリューがあったんです。『煮干しと言えば上灘共栄網、上灘共栄網と言ったら煮干し』となるくらいまで、もう一度、認知度を高めたい」

直樹さんは、組織の内部もこれまで以上に一丸となっていかなければいけない、と説く。
「何をやっていくにも資格がいるし、観光業となれば様々な免許も必要になってくるかもしれない。上灘共栄網には定年があり、若い人たちが進んで取得していかないといけない。ただ網を引くのではなく、経営の部分にも関わってもらわないといけない」
新しい挑戦を始める上で失敗はつきものだ。直樹さんはこれから組織の柱となっていく若い漁師たちにも、「火災をきっかけに何か自分の経験にしていってほしい」と成長を促す。
「失敗も成功も自分たちでせんといけん」の言葉は、従来のやり方に縛られがちだった組織を、これからは変えていくんだという覚悟が込められている。
「気づけてよかった」
取材の最後にそうつぶやいた直樹さん。失敗することよりも問題を直視しないことが愚かだと、気づけてよかった。困難な状況でも前進していくことを決めた今は、そんなふうに思っている。

取材・文:くいしん
Twitter: @Quishin
Facebook: takuya.ohkawa.9
Web: https://quishin.com/
撮影:長谷川琢也
Twitter: @hasetaku
撮影:友光だんご
Twitter: @inutekina