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ニーズは現場にある。漁協が倒産リスクを取って1.5億円の加工場をつくれた理由
ある日、男は「鮮魚売場のバックヤードの人数が少ないこと」に気づいたーー。
今回、Gyoppy!編集部が訪れたのは、天然ふぐの水揚げ量日本一を誇る石川県輪島市。「石川県漁業協同組合 輪島支所(以下、輪島支所)」は、2015年頃から市と協力し、「輪島ふぐ」をブランド化して、地域おこしに取り組んできました。
そんな中で、1.5億円もの建設費を使ってつくられたのが、水産加工場。
漁協が加工場を持つことは、とてもハードルが高いんです。莫大な建設費がかかる上、採算を取ることが難しく、潰れてしまうことも少なくありません。
それでも輪島支所が加工場をつくるべきだと判断したのは、「丸ごとの魚よりも、一次加工した魚にニーズがある」と確信したから。
そんな確信を持ったのが、石井至(いしい・いたる)さん。石井さんは、輪島支所で営業を担当しています。輪島の水産物を売り込むために全国を飛び回り、マーケティングや販路開拓、PR活動まですべてをこなす――。その活躍ぶりから"輪島の隊長"と呼ばれ親しまれているほど。
石井さんは、全国の大手スーパーを営業して回る中で、「鮮魚売場に人が少ない」ことに気づきます。都市部では人件費が削減されて人員が減っていました。さらに、東京をはじめとした都会からは魚を捌ける人が減っている事実に気づいたんです。
これはつまり、地域が都会に対して魚を売るには、生魚よりも、加工した魚のほうが売りやすいということ。
徹底的に顧客に耳を傾け、その要望に応え続けた石井さん。現場を回る中でニーズを見出し、加工場をつくり、地域の漁協を成功に導いたその姿には、ビジネスを成功させるための普遍的な学びがたくさんありました――。
現場を回ってニーズを掴め
── 石井さんは、なぜ漁協に加工場が必要だと考えられたのでしょうか?
大手スーパーに、切り身や開きなど一次加工品の需要があることを確信したからです。私はもともと漁協の銀行業務担当(信漁連)をしていたのですが、10年ほど前に営業の部署に異動しました。そのときの運営委員長(輪島支所の漁師の責任者)に「漁協の直販の売上を伸ばしてくれ」と言われて、クーラーボックスにいっぱい魚を入れて、大手スーパーを回り始めたんです。
── まずは直接営業をしていったんですね。
全国を回る中で、鮮魚売場のバックヤードの人数が少ないことに気づいたんです。昔は、バックヤードで魚を3枚におろしたりパッキング作業をする人が5、6人はいたんですが、それが当時、せいぜい2、3人しかいませんでした。
── 昔と違って、人件費をかけられないのかもしれませんね。
さらに言えば、都会から魚を捌ける人が減っている中で、地方にはまだ魚を捌ける人がたくさんいました。それに気づいたとき、「これからの時代は、一次加工処理をしたほうが絶対に売れる」と思ったんです。
スーパーの人に話を聞くと「丸ごとの魚をバックヤードで捌くなら200箱が限界だけど、一次加工してくれるなら500箱仕入れたい」という話もありました。
── 何度も現場に足を運んだからこそ、ニーズを気づけたと。
そうなんです。一次加工をすると、丸ごとの魚より価格が高くなりますが、「その分、バックヤードの人件費が節約できるから、下処理してもらったほうがいい」というお客さんが多かったんです。そこで、漁協で加工場を立ち上げることを提案しました。
── 反対意見はありましたか?
「漁協が加工場を持ったら潰れる」という固定観念があるので、当初は反対もありました。「新しいことをやっていくことが必要だ」という人と、半々くらいでしたね。運営委員長と相談して、最終的に推進する決断が下ったんです。