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ニーズは現場にある。漁協が倒産リスクを取って1.5億円の加工場をつくれた理由

漁協が加工場を持つメリット

── 加工場をつくることによって、漁師さんたちにもメリットはあるんでしょうか?

1番のメリットは魚価が下がりにくくなることですね。加工場が浜にあるので、魚を運ぶ燃料費がかからない分、漁師さんに多く還元できることになります。

── なぜ魚価が下がりにくくなるんでしょうか?

たとえば、中央卸売市場で100円の値段が付いたとします。それから何日も続けて同じ魚を持っていくと、在庫が増えるので、翌日から80円、70円と段々値段を下げられてしまうんです。そういうときに「その値段ならうちの加工場で100円で買い取ります」と言うことができる。

すると市場の方が「それだったら100円でもらいます」となることもあります。「この値段以下なら加工場に入れる」という基準をある程度決めておくことで、魚価が下がりづらくなるんです。

── 加工場をスタートしてからは、スーパーへの販売で売上をつくっていったんですか?

それだけではありません。加工場の立ち上げと並行して、インターネット販売をスタートしました。うちの最初のブランド魚として、輪島港で水揚げされたノドグロを「輪島能登黒(のとくろ)」と商標登録したのもその頃です。それから飲食店への直販も始めました。

── 飲食店へはどうやって販路を拡げていったんでしょうか?

こちらで「1箱何キロでいくらです」と決めるのではなく、顧客の希望に合わせて、1箱に何種類でも詰め合わせて送るように対応していました。飲食店は、キロ単位でブロック凍結した魚は、使いきれなくて捨ててしまうことになるんです。

うちの加工場なら、IQF凍結(食品を固まりでなく、バラバラに凍結させる技術)で1匹ずつ急速凍結できます。使わなかった魚は凍結させればいいので、ロスになりません。

加工場ができる前から飲食店にどんな商品がほしいかを聞き出して、サンプルをつくったりしていました。そうやって顧客のニーズを知ることが大事。お客様は神様ですから。

── 加工場の売上は順調に伸びていったのでしょうか?

5年間で売上は徐々に上がってきています。今年は事業計画の2倍強になっています。ふるさと納税でも、うちの加工場の鮮魚が輪島市の応募総数の65%くらいと人気になっています。

法律を学ばなければ、ビジネスはできない

── 加工場、ブランディング、販路開拓の3つを同時に行われたということですが、その理由を教えてください。

3つ同時にやるからこそ、うまく回るんです。加工場だけあっても、商品が売れなければ在庫を抱えて破綻してしまう。ブランド化しても、魚を丸ごと出荷していたら、通常より価格が高いうえに、買い手が加工しないといけないから、他の安い魚でいいと言われてしまいます。ものを売るためには、そのための仕組みをつくらなければいけないんです。

── 他に、加工場を運営するうえで気をつけていることはありますか?

仕入れ値をむやみに上げないことです。漁協の加工場の利益が上がると「漁師さんにもっと還元しなければならない」という話になりがちです。しかし仕入れ値を上げると、外部の一次加工業者との競争に負けてしまいます。

だから、加工場をつくるときに、漁師さんにはその点をお話させてもらっています。安く買い叩くようなことは絶対にしませんが、高くも買わない。適正な価格で買い取らせてもらっています。

加工場での作業の様子

── 漁師さんと認識を共有することが大切なんですね。新しい取り組みをするときには、他にどんなことが大切なのでしょうか?

法律ですね。新しいことをしようとすると、法律的に白なのか黒なのか、非常にわかりにくいんです。すると、どうしても二の足を踏んでしまいます。真っ白な部分だけで進めようとすると、新しい事業を進展させることは難しくなります。法律のグレーな部分を自分で学んで、きちんと解釈しながら進めていかなければならないんです。

── たしかに、それはビジネス全般にいえることですよね。石井さんは、法律を学ぶ大切さにどうやって気づいたんですか?

信漁連にいたときに融資などの業務をやっていたので、法律を勉強しないと仕事にならなかったんです。30代後半くらいから勉強して、興味を持つようになりました。ビジネスをやるからには、一生勉強しなければダメですね。

── 自分で学んで、ビジネスに何がどう活用できるか知らなければならないんですね。

そういう意味では、自治体との関係も同じことがいえると思います。輪島市や石川県にどういう面で協力してもらえるのかを知る。そして、自分たちのこともうまく活用してもらう。「官民一体」とはそういうことだと思っています。

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