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八幡浜漁協における水産加工品の販路開拓への取組み
~「できることをしないのは怠慢」~

八幡浜漁協の水産加工施設、シーフードセンター八幡浜

愛媛県の八幡浜漁協は、2014年9月から加工部を新設して、加工事業に取組んでいる。加工場は、八幡浜市が建設した水産加工施設「シーフードセンター八幡浜」(鉄骨造平屋・延床面積401.45平米)で、市から利用許可により使用している状況である。

加工部では、魚の一次加工(フィレなど)と水産加工製品の開発・販売、買受人からの受入加工を行っている。2018年度の売上高は約18百万円、うち加工品販売高が14.5百万円(学校給食3~4百万円、地元企業への販売1.5百万円、ふるさと納税の返礼品、ギフト商品、その他9百万円)、受入加工料が3.5百万円である。

シーフードセンター八幡浜の概要(資料 八幡浜市役所)

漁協による加工事業によって、未低利用魚に値が付くようになり、漁業者の所得向上につながっている可能性がある。例えば、ヤリイカの削り節「いかの浜ぶし」の商品化によって、ヤリイカの規格外品が1,000円/1箱(約3キロ)から1,400~1,500円/1箱に上昇している(ヤリイカの需給バランスで値段が上がっている面もある)。
また、受入加工を利用している買受人も、養殖魚をフィレにして販売するなどして売上および利益を伸ばしているのではないかと推察される。

八幡浜漁協の加工部で提供している商品(資料 八幡浜漁協)

加工部の職員は3名、パート2名であり、その職員の1名が事務担当の森田さんである。森田さんは以前は愛媛県の臨時職員として水産課に勤務していたが、任期満了時にシーフードセンター八幡浜(漁協の加工部)の事務の仕事を紹介され、17年春から勤めている。最初はアルバイトで、18年から正職員になっている。
森田さんは経理事務を通じて加工部の収支が厳しいことを実感し、利益を伸ばすために自らできることに着手していった。

地元企業へのチラシ配布による販路開拓

加工部では、八幡浜市役所職員生活協同組合にチラシを配布して、水産加工品の販売を促していた。森田さんは、1取引先のためにチラシを作ることは経済的ではないと思い、17年夏から自らが地元企業を訪問してチラシの配布を始めた。これは水産加工品の販売に加えて、八幡浜漁協の市内での知名度を上げることも目的としていた。

デザインや営業については素人である森田さんであったが、試行錯誤しながらチラシを制作し、地元企業を訪問し販売先を開拓していった。現在は10社ほどの地元企業に継続してチラシを配布して注文を得ている。販売商品が市場価格よりも低めに設定されていることもあって、1度取引ができたところは継続している。チラシの配布は奇数月と偶数月の2組に分かれており、1社につき2か月に1回、商品ラインナップも基本的には毎回変更し、マンネリ感が出ないように気を配っている。森田さんは、掲載する商品を考えるのが一苦労と言う。

チラシで販売しているのは、加工部の加工品だけでなく、漁協の鮮魚部が他から仕入れて販売しているものもある。モズクやチルド加工されたカキなどは人気で、売上も伸びている。加工部の加工品のひとつである「はもだんご」は好評で、学校給食でも提供されるようになり、さらに他でも扱われる予定である。

地元企業に配布するチラシ

西宇和農協とのコラボ商品の開発

加工部の商品はふるさと納税の返礼品として提供されていた。森田さんは、18年に八幡浜市が「みかんと魚の町」を標榜していることから、水産加工品と柑橘・柑橘加工品の組み合わせ商品によって「八幡浜市をPRできる返礼品」をつくろうとした。しかし、漁協が個人農家から商品を調達したりすることは困難であることから、西宇和農協に協力してもらうこととなった。森田さんは、企画書を作り、市の橋渡しのもと西宇和農協にコラボ商品の提案・プレゼンを行った。

西宇和農協への提案企画書

その結果、ふるさと納税の返礼品として、水産加工商品と柑橘加工品が同梱されているギフトセット「みかんと魚の町八幡浜」と、水産加工商品か柑橘・柑橘加工品が毎月届く通年商品の2つのコラボ商品が誕生し、18年7月から販売を開始している。ギフトセットについては、返礼品としてだけでなく漁協がお中元やお歳暮として直接販売したり、先の地元企業へのチラシを通じて販売している。積極的に販売するにあたって、東京にある愛媛県のアンテナショップ「香川・愛媛せとうち旬彩館」でも注文を受け付けていたこともある(現在は注文の受け付けはしていない)。

ギフトセットは、地元新聞などに取り上げられ、新聞を見て注文や問い合わせをする人もいた。注文を受けた後には、顧客リストを作成して、お中元やお歳暮シーズンにチラシを送付して、注文の継続を促している。

また、西宇和農協との関係ができたことによって、農協の組合員向けの夏と冬のギフトチラシにギフトセットや加工部の加工商品が掲載されるようになり、農協の組合員や職員も購入するようになった。

八幡浜漁協と西宇和農協とのコラボ商品「みかんと魚の町八幡浜セット」
森田さんがデザインした「みかんと魚の町八幡浜セット」の化粧箱の表面

営業活動による販路開拓

上記のような取り組みのほか、森田さんは次の販路として四国の特産品オンラインショップ「産直ステーション夢四国」を運営しているJR四国に営業を行った。その結果、19年春から干物セットなどの水産加工品の取り扱いが開始されている。他にも現在交渉中のものもあり、販路の拡大が図られている。
 「八幡浜漁協では加工部のギフト商品などを自ら販売するということは容易ではなかったので、販売力のあるネット通販サイトを利用するほうが得策」という判断のもと、森田さんは積極的に販売能力のあるところに営業活動をすることによって、加工部の水産加工品の取扱高を増加させている。

「できることをする」チャレンジ精神

森田さんは、経営や営業、デザインについて素人であったが、利益を伸ばすことの必要性を認識して、販路開拓に取組んでいった。事務の職務範囲を超えての仕事であるが、これは漁協の加工部の損益を知ってしまい、「できることをしないのは怠慢」という思いが背景にあった。「自分にはできない」「どうせ駄目」という諦めではなく、経験したことのない業務に挑戦する姿勢は見習うべきである。

すべての取組みが上手くいっているわけではないが、新たなことに挑戦することによって、新たな学びを吸収して、八幡浜漁協の加工部は成長している。 小さなことでも自分たちができることに挑戦することによって、現状打破できる好例である。そして物事を推し進めるのは、知識より自組織に対する思い・やる気が大切であることを示している。

文:尾中 謙治(農林中金総合研究所
参考記事:農中総研情報「八幡浜漁協における水産加工商品の販路開拓と課題

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