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「家で魚を食べてますか?」儲けよりも食文化の存続を目指す大阪商人(3/5)

「家庭の魚離れ」が進む現状に “待った” をかける

「こんなに大きいの!?」と取材班を驚かせた巨大な金目鯛

── 上田さんは仲卸業者とは思えないほど積極的に消費者と関わっていますね。その答えは、新しくスタートさせた「ワダツミ」にもつながる予感がしているのですが。

上田

「ワダツミ」も、「ざこばの朝市」も「関西すし学院」も、関わっている取り組みにはすべて共通した目標があるんです。それは『もっと魚を食卓で楽しんでもらう』こと。それを広めるためにいろいろやっているんです。

── 「魚を食卓で楽しんでもらう」とは?

上田

今、一般家庭では「魚を日常的に食べる文化」が消えつつあるんですよ。周囲の家庭を想像してほしいんですが、魚をまるまる捌いて食べている家庭って少ないと思いませんか?

── 確かに……。実家のことを思い出してみると、秋刀魚の塩焼きに、せいぜい処理が簡単なイワシやアジなどの小魚しか丸魚を調理していなかったかも。他の料理は、いつもスーパーで買った切り身を使っていましたね。

小さな頃から「父の跡を継いで仲買人になる」と決めていたという上田さん

上田

昔は魚をまるまる買って、捌いて、刺身に、焼き物に、煮物に……と日数をかけて食べ切るのが普通でした。魚をすべて味わい尽くすことで、おいしい調理法や魚への知識が身につくわけです。しかし、物流の流れが発達し、効率を重視するあまり魚の売り方が変わってしまった。

スーパーの各店舗に専門家を配置するにはコストがかかるので、加工センターで魚を捌いてパック詰めして各店舗へと配置したり、冷凍モノの魚を通年常備したりと、一般消費者がおいしい魚の知識を日々の生活のなかで学べる機会がガクッと減ってしまったんです」

── なるほど……。

上田

もちろん、鮮魚コーナーに知識のある人間を雇って、その日のオススメの魚や捌き方をお客さんに教えてくれるスーパーも多数あります。一時期の過剰なコストカットによる「魚離れ」を危惧した企業の本社が、しっかり専門家を置くようにシフトチェンジしたケースもあります。ただ、そういったスーパーが近くにない人はどうしようもないですよね。

── 一度でも家庭で魚を捌くことが廃れてしまったら、以前のライフスタイルに戻すことが難しいような気がします。親に「丸魚の捌き方教えて」って聞いても、教えられないかも……。そもそも実家には、魚の解体に適さない洋包丁しかありません。

上田

そうなんです。利便性としては一口大に切られた魚のほうが楽は楽ですけど、やっぱり魚は切れば切るほど本来の新鮮さや旨味は失われていく。そうすると「売ってる魚って美味しくないな」という意識につながり、余計に魚離れが進んでいくんです。

ひとつの魚を丸々1匹楽しめたほうが、美味しいし、かつ経済的なんですよ。仲買人の家に生まれ、魚を身近にして育ち、そしていま僕自身も仲買人をやっている。漁港と消費者の間に立つ人間として、自分の立場や経験を活かして「家庭の魚離れ」が進む現状に”待った”をかけたいんです。

おいしい魚を食べた経験があれば「次も食べよう」と思えるでしょう? 僕がお店で提供したいのは、そんな体験なんです。

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