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技術とロジックで常識を覆す!「音響カーテン」から始まる養殖マグロ革命(2/5)
養殖業の常識を覆す
── 濱野さんは「音響カーテン」と呼ばれるマグロ養殖に必要な仕組みをつくっていると......。どんな仕組みなんでしょうか?
生け簀の中にいるマグロの数を、正確に数えるシステムです。しかしまあ、技術的なお話は置いておきましょう。
── えっ。置いておくんですか?
ええ。私が一番に知っていただきたいのは、我々がこの技術で、今までの常識を覆したってことですから。尾数計測が正確になれば、マグロ養殖も変わるんです。
── 生け簀のマグロの数を正確に数えることは、難しかったんでしょうか?
そう。これまでは、ね。今までマグロの尾数計測には、生け簀に入れる稚魚の段階で、ある程度数をカウントして、そこから死んだ数を引いて数える方法が取られてきました。マグロは表皮が極めて弱いという生物的特性があるため、一度生け簀に入れると、出荷するまでの3年間、いっさい手で触れることができません。だから、この方法を選ぶしかなかったんです。
── いっさい手で触れることができない......。マグロの養殖ってめちゃくちゃハードルが高いんですね。
そう。しかも死んだ数の計測は、毎日やっているわけではありませんし、死んだあとに生け簀の底に沈んでいる個体については、外からわからない場合が多い。従って、どうしても経験と勘によって、数を見積もることになるんです。

── なるほど......その場合、どのような問題が起きているんでしょうか。
実際の数よりも多く想定してしまうので、エサをやり過ぎてしまうんです。マグロ養殖業者が負担する運営に必要な経費は、その6~7割がエサ代です。
── そんなに!?
驚きますよね。それなのに、今までは正確な数を把握できていなかった。つまり、無駄なエサ代が経営を圧迫していたんです。エサ代だけで、1年に数十億円とかかるわけですから。
── 数十億......すごい......。
エサには生のサバなどを使うので、高くつくんです。それにエサのやり過ぎは、エサとなる魚の獲りすぎにもつながります。でも、もう大丈夫。我々の開発した音響カーテンがあれば、無駄なコストを減らせるだけでなく、マグロ養殖業全体の発展にも大きな一歩となるはずです。
── 全体の発展に。どういうことなのでしょうか。
先ほども言ったように、今までの尾数計測は、現場で培ってきた経験と勘によって行われてきました。これはつまり、コストの算定が曖昧になるということ。一般のビジネス分野では認められないですよね。
たとえば、ある会社の水産部が、数十億というエサ代を本部へ請求するのに、正確な数字に基づいてプレゼンできなければ、許可は下りないわけです。
あらゆるビジネスが正確さを求める中で、水産業は遅れをとっている。そんな状況を、なんとか食い止めなければならないんです。
── コストを管理しなければ、価格にも響きますよね。
労働賃金の安い中国や東南アジアの国々が安いマグロをどんどん輸出したら、日本の業者はお手上げでしょうね。
日本の水産業を立て直す鍵は、いかに日本の安全・安心な養殖魚が海外で売れるかだと、私は考えています。本来日本は、水産技術が高いんです。だからもっと、水産物を輸出して儲かっていてもおかしくない。そのためには確固たる数値に基づいて、よりロジカルに取り組んでいく必要があると思います。
だからこそ、コストを削減した新しいシステムに切り替えていかなくてはならない。音響カーテンはその第一歩です。今までの常識は捨ててください、我々が打破しましたから。
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音響カーテンはマグロのサイズも計測できるため、生け簀内のマグロの資産価値を算出することができる