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石川県水産業の創造的復興

2024年元日、石川県を大震災が襲った。従前から水産資源を持続的に利用するための資源管理や、それを魚価向上につなげるためのブランド化など、未来志向の取り組みを強めていた最中だった。漁協や港の施設の被害は甚大で、“元通り”への復興は極めて難しく、その進行も道半ばという状況。それでも、前を向く関係者らの努力について、数回にわたって紹介する。

元来、同県は独自の資源管理を進めてきた。ズワイガニやタラの漁を連日操業しないことで資源の保全と値崩れ防止を図っており、ズワイガニの雌や若齢個体などの保護にも取り組む。「国の研究で資源状態が可視化され、漁業者の世代交代・経営感覚の高まりもあり、資源管理への意識も高まっている」(石川県漁協)。同県含む日本海西部のズワイガニの資源は近年、国の科学的評価でも、若齢個体が守られるなどで漁獲圧が過剰でない水準に抑えられていること、十分に産卵できるだけの親ガニが生息していることが示される。

資源が安定していて、かつ品質にも定評がある加能ガニ(県産ズワイガニの雄)や香箱ガニ(同雌)、天然能登寒ぶりについては、県としてブランド化に特に注力してきた。県漁協は最高級ブランドとして21年に加能ガニの「輝」、22年には香箱ガニの「輝姫」、天然能登寒ぶりの「煌」を立ち上げ。いずれも厳格に超大型サイズのみに制限しており、漁獲日をタグやプレートで表示できる、資源管理に積極的な漁業者が獲っている―などの条件を付けた。輝については傷がない、身入りが良い、煌については、色つやや脂のりが良い型で判断するという徹底ぶりだ。輝は初セリで1尾500万円、煌も初年度に400万円の落札価格を達成。メディアなどで盛んに取りざたされた。

元々、15年には金沢まで新幹線が開通して観光客消費が増加。これらも相まって「知名度も向上する中、単価は加能ガニで3~4倍、天然能登寒ぶりも(高級ブランドとして知られる富山県の)ひみ寒ぶりと同水準まで上昇していた」(県漁協)。一方で従来は「県内に地域(ごとに複数の)ブランドがあったため」(同)、隣県のひみ寒ぶりや福井県の越前ガニのようなブランドネームが定着せず、“石川といえばこの魚”がなかった。この脱却へ、確かな歩みを進めつつある。

2月には帝国ホテルの杉本雄第3代総料理長が来県し、「地元の水産関係者らの資源管理への積極的な姿勢に共感を示した。持続可能性を重んじる自身の価値観と重ね合わせていた」(同県水産課の島田拓土専門員)。杉本氏は「自然のリズムに合わせて、獲れた食材で料理を作る。これこそ料理人本来の姿」との考えで、食べきりサイズよりも大きく育ったために単価が低い同県産アカガレイなどの提供を開始。以降、同県漁業者との座談会など交流を深めている。

県産魚のPRに向け、各種SNSアカウントも活用。21年に県漁協が開設した公式Xは2万6000人超のフォロワーを抱える。SNSやポータルサイト記事の発信を石川県漁協とともに支える島田専門員は「独り善がりでないPR」を重視。消費者の目を引くよう、オンライン発信では丸の魚だけでなく料理写真を重用する▽高頻度で更新することで読者を飽きさせない▽サイトのデザイン性を重んじるあまりに操作性を悪くしない、県産魚を食べられる/買える店まで紹介する―など工夫していると明かす。
島田専門員とSNS発信の中枢を担うのが、同漁協の若松拓海氏。その日ごとの水揚げの様子などを、現場からの動画と写真を交えつつフォロワーらに“直送”する。「ともに30代と歳の近い若松氏とご一緒できたのが大きかった。若い意見を理事がフレンドリーに聴いてくれる空気が、県漁協にあった」(島田専門員)

JFマリンバンクの仲介で同県の漁業のPRに参画しているフィッシャーマン・ジャパン(宮城県石巻市)共同創業者の長谷川琢也氏は「若い人に任せることは大切」と、同県の姿勢を高く評価。同県と水産庁(政府)の人事交流が盛んなことにも着目し、「マクロ(広い視野)になりすぎて地域が見えなくなりがちな東京(政府)と、交流があることも重要」と、同県の風通しの良さと視野の広さを強調する。
水産庁への出向経験がある島田専門員は「資源管理など、『国に言われたから』ではなく『こういう目的があるから』と(県内で)説明できるようになった」と回想。県内の、若手や政府などの多様な視点をオープンに参照する気風が、前向きな取り組みにつながっているようだ。

積極的な水産物のブランド化やSNS発信、県内への新幹線開通などで、魚価の向上をはじめとする着実な成果を挙げていた石川県。ただ、依然として自県民の県内水産業に対する認知度の低さや、来県観光客が食べている魚に他県産が少なくないといった課題があった。解消に向け、消費者目線を意識したPR活動に動こうとしていた矢先、2024年元日に能登半島地震が発生。逆境の中、県漁協などが組織する「いしかわ四季の魚PR推進協議会」は25年5月、ポータルサイト「うぉルカム!おいしかわ県.jp」を開設。産地や魚種がどのようなストーリーを持つかなどをPRし始めた。

県民については「地場産にこだわる人は限られ、これだけの水揚げが県にあると知らない人もいると思う。関心を持っていただきたい」(県漁協の青山邦洋専務)。観光客のみならず県内の消費者、小売店などへの興味喚起に向け県内の漁法や魚種、日ごとの漁獲結果、地場産魚を提供する店、資源管理などをまとめる〝魚のテーマパーク〟的なポータルサイトを構想した。

ただ、「(サイトの)企画こそあれど、スキルがなかった」(同)。そこで白羽の矢が立ったのが、長谷川琢也氏だった。長谷川氏はフィッシャーマン・ジャパン(宮城県石巻市)の共同創業者で、LINEヤフーなどで豊富な発信経験を持つ。震災前から、漁協系統の金融サービスを担うJFマリンバンクの関連機関(農林中央金庫と東日本信漁連)を通じて同県に派遣され、漁業担い手づくり事業に助言をするなどしており、サイトのデザインチームにも参画することとなった。

その直後、能登半島地震が発生した。県内の81港のうち72港に被害が発生。能登半島北西岸の外浦地域では地盤の隆起で水深が浅くなる、海水が干上がるなどで漁船が港から動けなくなる事態も。半島南東岸の内浦地域では津波被害などがあった。

県内の水産関係者は、港の復旧作業はじめ対応に忙殺された。ポータルサイトの開設作業にも苦労と時間を要したが、いよいよ5月にサイトを開設。数万人のフォロワー数を誇る県漁協の各種SNSと連携しつつ、県産魚がどこで買える(食べられる)か、産地や魚種がどのようなストーリーを持つか紹介している。

サイト立ち上げ時には、PRの第1弾として、能登の春告魚として知られるヤナギバチメ(ウスメバル)の特集記事を掲載。高級志向で知られる「金沢まいもん寿司」や、県産魚を積極的に扱うスーパーマーケット「どんたく」も賛同・協力。特にまいもん寿司とはコミュニケーションが深まり、その後も「輪島の海女採れサザエ」の出荷などにもつながった。今後は「PRしたい魚種に合わせ、ロットが少なければ金沢市内の店舗で、多ければ全国の店舗で、など幅広いPRを考えられるきっかけづくりができた。大事なのは店舗にとってもプラスになることを意識できるかどうか、そのための信頼関係構築」(同県水産課の島田拓土専門員)を展望する。

一方で、県漁協の青山専務はポータルサイトについて「まだまだ未完成」とも語る。「テーマパーク的な楽しめる要素をしっかりつくっていきたい」と展望。過去の記事が蓄積されるサイトの特色を生かすことで「地元の小売店や個人経営のお店などの情報を網羅し、自県民が地元の魚を求めてくれるようにしたい」と意気込んでいる。

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