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自分らだけではつくれなかった。漁師が人の意見を受け入れ生まれたブランド魚

獲り方を変えるため、千葉県大原漁港へ視察

── 釣り方の部分で変えたところはありますか?

井村:今までは、一本釣りで釣り上げたサワラをギャフ(魚に引っ掛けるためのかぎ針)を使って引き上げていたんですが、それだとサワラの目や胴体に傷が付くことがありました。その獲り方を変えたことですね。

久保田:漁師さんの中には「傷は一本釣りで獲った証だ」とプライドを持っている方もいました。でも飲食店や市場から「改善してほしい」という意見が大きかったので、2年目からは「傷があるものはブランドNG」と基準を変えたんです。ではどういう獲り方をすればいいのかということで、サワラを傷付けない方法で漁をしている千葉県の大原漁港に視察にいくことになりました。

サワラの餌であるカタクチイワシ

井村:視察先ではタモ網を使ってサワラを引き揚げていたんだけど、「鮮度のことをすごくよく考えているな」と目から鱗でした。でも「35年間築き上げてきたことを変えて、人の真似をしたくない」という気持ちも少しあった。そのことで、久保田さんに文句ばっかり言ってました(笑)。

── たしかにそれは気持ち的にも難しいですよね。

井村:ただ、漁師仲間と話していて「やっぱりブランドサワラに傷があったらおかしいよな」となった。だから、私が仲間内で最初に網を使い出したんです。「一番反発してたお前がやるのか」と言われましたけど(笑)。そうしたら全員がやるようになった。

しかし、ギャフなら百発百中だけど、網だと逃すことが多かった。大原では釣り針が1本だったけど、私らは釣り針が2本付いたものを使っているから、それが網に引っかかるとどうしようもないんです。サワラに網の跡が付いてしまうという問題もありました。

試行錯誤の末、網の上に透明なビニールシートを敷くことで、網の跡を付けずに綺麗な状態で獲れるようになりました。

試行錯誤しながら改良した網は、漁師によって形が異なる

久保田:漁師さんたちが独自に改良して、網の上にシートを敷いて、逆さまの滑り台みたいに引きずり上げていくんです。そうすると不思議なことに、サワラが暴れないんですよ。

井村:サワラは硬い網の上だと掴めないぐらい暴れるんだけど、柔らかいシートに乗せるとピタッと暴れなくなる。これには自分たちも驚きましたね。

ブランド化で魚価が2倍に

── ブランド化したことで、どんな変化がありましたか?

井村:2年目には、「トロさわら」は、ブランドタグが付いていないサワラと同じサイズでも、2倍の値段が付けられるようになりました。漁師の収入はアップしましたね。1年目の時は100円~200円の価格差だったけど、昨年からメディアが取り上げてくれるようになって、急に値段が上がりました。

久保田:2年目からの、ギャフの傷や、脂肪含有量の全量測定などの改善の成果も反映されていると思います。ブランドタグに漁船の船名を入れるという取り組みも2年目から始めました。これは漁師さんからの提案なんですが、すごくいいアイデアだと思って、すでにタグを発注した後だったんですが、急遽、船名のシールをつくりました。

井村:2年目のシーズンが始まる前に、漁師がみんな集まって「鮮度が良い人も悪い人も、同じ値段を付けられたら困る」という話になった。だから「タグに船名を付けてくれ」と久保田さんに言ったんです。

── ブランドの中でも差別化できるようにしたんですね。しかし脂肪含有量の測定やタグ付けは漁師さんにとって手間の掛かる作業なのでは?

井村:今までよりも30分早く漁を切り上げて港に入って作業しています。入札が14時半なので、その後にずれ込む訳にはいかないから入港時間を早めるしかないんです。30分あれば10本多く釣れるので、漁師にとって毎日のそのロスは大きい。でも魚価が上がっているから、みんな早く帰ってくるようになりました。

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