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自分らだけではつくれなかった。漁師が人の意見を受け入れ生まれたブランド魚

漁師だけでは、どう切り開けばいいかわからなかった

── 水産物のブランド化には、ブランドの基準の明確化や、流通、宣伝活動など様々な課題があると思います。「答志島トロさわら」は、当初どのようにブランド化を進められたのでしょうか?

井村:ブランド化は、漁師から声を挙げて立ち上げたのではなく、漁協や観光協会、鳥羽市がやってくれた事業なんです。漁師たちの間でも、何十年も前から「サワラをブランド化したい」という声はありました。それをしないことには、魚価が上がらないし、収入も上がらない。でも自分たちだけでは、どこから手をつけて、どう切り開けばいいか分からなかった。

── そんな状況から、どのようにブランド化の声が挙がったのですか?

久保田:鳥羽市は伊勢神宮からも近く、古くからの漁業と観光の街なんです。そこで、漁業と観光がもっと連携して相乗効果を狙おうと、「鳥羽市・漁業と観光の連携促進協議会」が数年前に発足しました。観光の目玉になる魚をブランド化する話が始まったんです。

イセエビやアワビよりも気軽に食べられて、観光の目玉になるおいしい食材として、伊勢湾のサワラが挙がりました。

井村:伊勢湾はプランクトンが豊富なので、カタクチイワシやマイワシがたくさんいます。それを食べているから、伊勢湾のサワラはものすごく脂ノリがいい。でも今まで、知名度はあまり高くなかったので、これをブランド化して知名度を上げていこうということになったんです。

久保田:ブランド化をすることが決まっても、一朝一夕にはできないので、そこから地道な調査活動を積み重ねることになりました。2016年頃から、他と差別化するために「サワラの脂肪含有量の高さを売りにしよう」と、三重県水産研究所に協力いただきながら定期的にデータを測ってきました。その蓄積があってブランド化ができています。

── 久保田さんは、いつからブランド化を担当されているんですか?

久保田:私は2017年に鳥羽市に移住し、漁協の職員となりました。その翌年の2018年4月から現在の企画販売促進担当となったため、ブランド化宣言が行われる2カ月前から途中参加をしたんです。その2カ月間で決めなければならないことが多くあって、怒涛の毎日でした。

── 漁協の担当者として、どんなことをしていたんですか?

久保田:協議会でブランドの基準を決めて、それを漁師さんや仲買さんたちに了承を得るために説明会をやったり、そういう調整が多かったですね。あとは、ブランドのロゴをデザイナーさんに依頼したり、魚に付けるタグを水に強い材質に改良したり。公式ホームページを立ち上げて、全国でトロさわらが食べられるお店を募集し、その情報を掲載したりもしていました。

── 協議会には様々な機関が関わっていますが、どうやって連携を取っていたのでしょう。

久保田:私と、観光協会の実務を担われている江崎貴久さんと担当者の大村佳之さん、鳥羽市農水商工課の担当者の4人で常に連絡を取り合って、情報共有をしていました。

漁師さんだけでなく、行政や観光関係の方、水産研究所、大学の先生、本当にいろんな人が携わってブランド化していることが、他の地域ブランドとの違いかもしれません。

数値を測るからこそ、確実にうまいサワラが食べられる

── 漁師さんたちはブランド化に当たってどのように取り組まれていたんですか?

井村:まずは脂肪含有量の測定ですね。ある時、久保田さんがフィッシュアナライザ (魚に押し当てることで脂肪率を測ることができる小型機器)を持ってやってきて「これで測ってください」と言ってきた。それからは、市場に出す分だけでなく、自分たちで食べる分も全部測っています。

それまでは「丸い太ったサワラが旨い」と思ってたんです。でも測ってみると、丸いサワラでも10%ないものがあったんですよ。数値を測ることで、確実に脂ノリのいいサワラが食べられるようになりました。漁師たちの間でも「たしかにこの数値はすごいな」となりました。35年サワラを獲ってきたけど、見た目だけでは判別できないんだなと思いましたね。

アナライザを当てると脂肪含有量が表示される

久保田:1年目は漁師さんや市場の職員たちの業務上、手間がかかり過ぎるので全量の脂肪含有量測定は無理だということになったんです。でも2年目からは、みんなが手間をかけて全てのサワラを測定してくれているので、ハズレの個体がなくなりました。

井村:ブランドタグが付いているのに1回でも美味しくなかったら「こんなもんか」と言われてしまうからね。基準を満たしたサワラだけにブランドタグを付けるようにしています。

── サワラは"足の早い"魚といわれますが、どうやって鮮度を保っているんですか?

井村:昔は、釣り上げたサワラを活き締めにしたら、氷を敷いた上に何十本も重ねていました。しかしそれだと、氷に当たっている部分以外は身が割れてきてしまう。だから、今は氷水を使って鮮度を保つようにしています。そうすると、サワラの黒っぽい色が綺麗に出る。「みんな氷水にしよう」と声を掛けあって、見た目も鮮度もよくなるように努力しています。

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