ビジネス
「自分も他者も儲けて、海も守る」売れないローカル珍魚を売って漁業もする魚屋
次の目標は全国に船を出す。未来の「社会を愉快にする」ためにできること
── 食一としての今後の目標は、何を考えていますか?
収入源を増やしていくことをしたいですね。具体的には、来年、船を出します。

── 船を!
魚屋としてできることは今後も最大限やっていきますが、漁港の仕事を漁師さん達に丸任せしていては旧来の体制のままです。大きな問題は解決できない。
だから自らが動いて、やる。自らが動くことで大好きな海と、それに関わる人たちを守りたいんです。定置網、底引き......海域によって漁の仕方も変わってくるので、将来的には全国の各地に船を置いて、いろんな漁法で漁ができるようになりたいですね。
── 飲食店経営などが順当なのかなと思ったんですが、船とは。
11年の営業のなかで、いくらでも魚は集められるようになりました。簡単に魚を集められるからこそ簡単にそこに落ち着いちゃダメ。10年先、100年先の未来を考えるなら先に船を出すのが筋です。消費側の立場じゃなく、生産側の立場にならないと。食一のキャッチコピーは「食を通じて社会を愉快に」。安易に出店に落ち着くよりも、もっと面白いことしようぜ! みたいな心持ちです。
── 未来の海と漁業を守るために、普通の消費者ができることって何でしょうか?
やっぱり魚を食べることですよね。それも子どもが魚を食べなきゃだめ。食べる文化が途切れてしまうことがやっぱり怖い。都会の人は丸魚を捌けないじゃないですか。魚を食べるための教育が圧倒的に不足しているなと感じますね。もっと気軽に魚を楽しんでほしい。
それでいうと、全国に船を出していろんな漁法を実践しつつ、魚を獲る以外の儲け方を考えることも今後の目標のひとつなんです。各地の海に人がやってきて、魚に触れて食べて、遊び倒して帰ってもらうような場です。宿泊施設みたいなものも手がけていきたいですね。
行動しまくることで、儲かるうえに海の未来を守ることができる

最初はローカル珍魚を扱うときいて「変わった魚屋さんもいるもんだな」くらいの印象だったが、食一の仕事は、単にブルーオーシャンを狙っただけではなかった。
年間約200カ所の漁港に足を運び、年間1000カ所もの飲食店に全国の魚を卸すパワーがあって、さらに加工もできる。出荷方法もチェックする。なんなら今後は船まで出す。飲食店や宿泊施設まで手がけるかもしれない。
非常に社会性のある取り組みの連続だが、田中さんは「社会貢献とか、そんなことは思わないです」と言い切る。
「海を身近にして育ったからこそ、漁業が大変な現状をなんとかしたい。だったら未利用魚・低利用魚を活かして僕も漁師さんも儲かればいい。僕もしっかり儲けます。自分が潤っていないのに他人を潤すことなんてできないんです。海の未来を守るために、今後も貪欲に仕事していきますよ」
圧倒的な行動力があるからこそ、自分も他者も儲かる。守りたいものを守るためには、行動を起こすしかないのだと田中さんの瞳はそう語っていた。
文:平⼭ 靖⼦(おかん)
撮影:⽜久保賢⼆
編集:くいしん
Twitter: @Quishin
Facebook: takuya.ohkawa.9
Web: https://quishin.com/
記事提供元:Gyoppy! (ギョッピー)