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「自分も他者も儲けて、海も守る」売れないローカル珍魚を売って漁業もする魚屋

就職先だと勘違いして「やった~、行く行く!」ってふたつ返事したら、じつは京都の頭のいい大学だったと。ほら、高校って「指定校推薦」があるじゃないですか。推薦枠を残すために、毎年誰かを同志社に送り込む必要があったんですよね。

── 指定校推薦の人身御供だったのは不憫ですが、めちゃくちゃ面白いです。

それが結局、起業につながるんですけど。進学先は商学部だったんですが、入学試験時の面接で「ファイナンシャルプランナーになります」って言っちゃったんですよね。日常生活にも活かせそうだと思って。

もともと進学希望がなかったからこそ、在学時はもう、めっちゃくちゃに勉強しました。ファイナンシャルプランナー2級とか、簿記とか、役立ちそうな資格は片っ端から取りましたね。「遊んでそう」ってよく言われるんですけど、本当に2年間はずっと勉強漬けでした。合コンなんてしたこともない(笑)。

で、3年生になった時に「何にも大学生らしいことしてない! 外に出てない!」と気づいて。夏に商工会議所のセミナーに通ったんです。そして冬、たまたまキャンパスに貼ってあった学生起業コンペのチラシに飛びつきました。30万円の賞金が欲しかったのと、勉強で引きこもっていた反動で少しでも外に出たくて。そこで産直の魚屋を立ち上げるプランを発表したら、優勝できたんです。

── 外に出たいの欲求の先が起業コンペ参加で、しかも優勝するんだ......。行動力の塊ですね。

優勝したからには起業しようと思って、大学を休学して食一を立ち上げました。教授からは「留学はまだいいが、起業のために休学するのはマズい。失敗した時に就職に不利になるぞ」って脅されました。ただ僕は根が怠け者なんで、自分を追い込まないとダメだと思ったんですよね。教授に「そうですか、じゃあ休学して起業します」って(笑)。

── バラエティー番組の"激レアさん"みたいな人生ですね......(笑)。

「安定しないものに価値がある」食一の価値を探してまわった漁港で見つけた可能性

── 未利用魚にフォーカスしていたのは最初からですか?

いえ、最初は単純な産直販売を考えていたんですよ。イワシとかサバとか。でも産直って市場よりも高くなる場合もあるし、ネット通販などの新しい流通形態が普及しても、一カ所に集めて値段を決める、旧来からの市場の機能は残ってるじゃないですか。

立ち上げの翌年......23歳くらいの時かな。「食一だから買う」という価値をつくらないと、将来頭打ちになるなと悩んで。そしたらある人から「もっと現場を回ったほうがいいよ」とアドバイスをもらったんです。それで、まずは四国と九州を回って、片っ端から漁港を見学させてもらいました。

......すごい発見でしたね。漁港には自分の知らない魚だらけだったんです。

そこで「安定しないものが価値になる」と気づいた。ローカルで獲れる魚のなかには、年間を通じて安定した数が取れないとか、知名度が低いために市場価値がつかないものがたくさんある。そうした消費される機会に恵まれない未利用魚・低利用魚に珍しさという価値をつけて売り出す。食一の特色は未利用魚・低利用魚を活かすことだと。

ホームにしている漁港もなく、従業員数も少数です。でも勝機があるものにグッとフォーカスすることで評価を得られた。2019年の11月1日で設立11年目になるんですが、いま関係を持っている港が200カ所くらいで、魚を卸している店舗が500......チェーン展開しているお店もあるから厳密には1000店舗くらいかな。順調に成長していますよ。

未利用魚の活用が、未来の海と漁師・消費者を守っていくことになる

── 未利用魚の活用は漁港にとっても嬉しいですよね。使い道がなくて困っていたわけですし。

僕は仲買人の家に生まれ育って、海がごく身近にありました。だからこそ海......日本の漁業が抱える問題も目の当たりにしてきました。

いま、故郷の海も水揚げ量がどんどん落ち込んでいます。確かな数字ではないかもですが、実家はおじいちゃんの代で確か15億ぐらいあったのが、親父の代で10億切ったんじゃないかと。朝も早くて体力勝負の仕事なのに儲からないとなると後継者も不足しますよね。ベテランの漁師でも魚が獲れなくなっているのに、若い漁師が獲れるわけないんですよ。

── 確かに......。

今、漁師の平均年齢が70歳くらいの地域も多くて。めちゃくちゃ深刻です。このままいけば、あと10年もすれば日本の魚が食べられなくなるかもしれない。

こうなったら、魚に付加価値をつけて売るしかない。珍しい魚ですよ、と付加価値をつけて小売店への売値を上げる。結果として漁業に関わる人が儲かるわけです。産地側にもメリットがないと、日本の海は問題に押しつぶされてしまいますから。

あとはおいしく食べてもらうために、出荷の仕方も細かく漁港にアドバイスします。いくらおいしい魚が獲れても、消費者の元に届くまでにおいしさが損なわれていたら意味がない。保存方法に関しては僕たちは結構口すっぱく言いますね。

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