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深浦サーモン キーワードは地域貢献と信頼感

過疎化が進む青森県深浦町、漁獲量とともに漁業者が右肩下がりで減少していく地域漁業、その一方で需要に供給が追いつかないサーモン市場。地域全体が一つになって、養殖サーモンを商業化ベースに乗せるという日本初の取り組みが始まっている。

中間養殖場 スモルトステーション

新たな水産業創出の可能性がサーモン養殖

サケは日本人1人当たりの魚種別購入量だけでなく好きな魚種でも1位を誇る。「国内の生食用サケ・マス類市場は約10万トンと言われるほど、大きな市場」(水産白書平成30年版より)。しかし、国内で消費されるサケ・マス類の多くがノルウェーやチリなどから輸入される外国産に占められ、特に生食用はほとんどが外国産という。

「日本から変えていきたい。地元で事業をやりたい。国産の美味しいサーモンを国民に届けたい」――岡村恒一株式会社オカムラ食品工業社長の熱い思いから、青森県深浦町でサーモン養殖事業が生まれた。

2014年12月、オカムラ食品工業、弘前大学、深浦町による「サーモン養殖実証事業に関する三者連携協定」が締結された。新たな水産業創出の可能性がサーモン養殖であるという三者の思いが一致したからだ。翌年からは、JF青森漁連を含めた海面4JF組合長との「サーモン養殖実証事業等に係る懇談会」が開催されるようになった。

JF深浦の山本幸宏組合長は、岡村社長から「サーモン養殖をやってみないか」と持ち掛けられたことが印象深かったと振り返る。青森市に本社を置くオカムラ食品工業は、海鮮加工を中心とした食品メーカーで、デンマークにサーモン養殖の子会社を持ち、ベトナムでは日本食レストランチェーンを手掛けるなど、世界的規模で事業展開をしている会社だ。

山本幸宏JF深浦組合長

一方、日本の漁業は、資源減少、魚価安、後継者不足など恒常的な課題を抱えていた。山本組合長は、少しでも漁業者の収入が増えるならと、受け入れた。

その後も、地域の理解を深めるため「サーモン養殖事業推進連絡調整会議」を幾度も開き、「良いことも悪いことも全て話し合ってきた」と、株式会社ホリエイの堀内精二社長は語る。

堀内精二(株)ホリエイ社長

深浦町で大型定置網や水産加工業、建設業を営む堀内社長は、地元JFとオカムラ食品工業とをつなぐ大切な役目を果たしている。定置網を営む堀内社長と山本組合長はもともと顔見知り。マグロの資源管理がスタートしてからは共に行動するようになった。

「山本組合長の動きは早かった」と堀内社長。JF深浦の理事や組合員に「地域のためになることだ」と説明して回った。漁業権についても「皆さんの理解を得て、取得することができた」と話す。

世界遺産の湧水で育つ深浦サーモン

事業構想は、ふ化事業(淡水養殖)、中間魚養殖事業(淡水養殖)、成魚養殖事業(海水養殖)の3段階で行われる。ふ化から出荷できるまで最長約29カ月。ふ化から中間養殖では、弘前大学や青森県産業技術センター等が技術指導や調査協力を、成魚養殖では、漁場提供やいけすの管理、船出しなどをJFが行う。

世界有数のブナの原生林を有する世界遺産・白神山地。山の恵みがたっぷりと含まれた湧水でふ化させ、その水を利用した中間養殖場で500グラムくらいまで育てたら、いよいよ海水養殖へ移る。3キロ程度に育ったら出荷だ。

養殖過程を陸上養殖とすることで、魚体の大きさや与えるエサ、水温・水質といったサーモン養殖に関する生育管理が可能となるだけでなく、海域に生息する寄生虫の排除が可能となる。こうしたノウハウは、すでにオカムラ食品工業が持っていた。いけすや自動給餌機、選別機などもデンマーク製のものを導入している。

愛情たっぷりの給餌

2015年にはサーモン中間養殖場の建設工事が始まった。深浦スモルトステーションと名付けられた大峰川沿いの中間養殖場は、第1から第4までの水槽群を持つ。約13000㎡の敷地は国内最大級。大峰川の流れと土地の高低差を生かした養殖場は、電動ポンプを使う必要がない。常にきれいな水が水槽を満たし、残ったエサやふんなどはしっかりと回収して、またもとの川へと戻す。水質は常に確認しているため、川も海も汚すことがない。省エネ・省コストで、環境に負荷を与えない中間養殖場は、白神山地の中に溶け込むように静かだった。

地元の漁業者たちとともに

白神山地の麓で育ったサーモンは、最大限の注意を払って海水へ入れられる。まずは漁港の岸壁に接したいけすで、一晩中様子を見る。異変がなければ、防波堤の内側のいけすへと移される。

2016年7月から中間魚養殖を開始し、翌17年3月にスモルトステーションが完成、同年6月、主に成魚養殖を担当する日本サーモンファーム株式会社が設立された。社長は岡村氏、専務に堀内氏が就任した。「共に事業を進めていく中で信頼を頂き、共同出資者、パートナーとしての要請を受けた」(堀内氏)。現在、海面での成魚養殖は深浦港湾のほか、北金ヶ沢漁港と今別町にある。

深浦港湾での養殖の生残率は95パーセント。養殖技術の高さだけでなく、サーモンへの愛情が数字に表れているようだ。

そして昨年5月、第1期のサーモン初水揚げが行われた。約72トンの深浦サーモンが誕生した。「全然足りなかった」と堀内氏。今年は600トン、来年は1000トンと増産予定だ

「販売面では数量が足りないくらいです。出口を押さえてから事業をスタートすることが大事」。都内の百貨店で深浦フェアを実施し、サーモンを売り出したところ、一日で50〜60万円も売り上げた。

見た目も味も美しい、深浦サーモン

「地域フェアでは異例の売り上げだった」と、百貨店の担当者を驚かせたという。

きれいな水で育った深浦サーモンは、色味もきれいで上質な脂が乗り、外国産のような臭みがない。さらにノルウェー産よりも安い。売れないわけがない。

目指すところは――。

「地域貢献です。地元のJFや漁業者たちと一緒になってこの事業を進めていく。一緒になって、深浦のサーモンや魚を日本全国に売り出していきたい」と、堀内氏は目を輝かせる。

執筆:JF全漁連

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