ビジネス

若い芽を摘ませないため、先輩がフォロー。
明石浦漁協が育む、なんでもやれる対応力

営業に回って気づいた、明石の価値

── 明石浦漁協の特長を順番に聞かせてください。まず、神経締め(神経を破壊して鮮度を保つ技術)は、いつから始めたんですか?

神経締め自体は少なくとも20年以上前からですよ。

── そんなに前から! 一般的に神経締めって寝かせるためにやりますよね。東京や東北はちょっと寝かせてねっとりしたのが好きだけど、西日本は、鮮度がよくてパキパキで角が立っている魚が好きと言われています。それなのになぜ、明石では神経締めをやっていたんでしょうか。

明石では、仲買さんが当たり前に神経締めやってはったんですよ。僕にとっては、効果とか値打ち感とかは分かってなくて、箱詰めまでの単純な工程のひとつに過ぎなかったんです。

── 宮部さん自身が、神経締めの価値に気づいたタイミングってあったんですか?

外に営業に行ってみることで、改めて必要な作業なんだなって思いましたね。

── 営業は、どこを中心に行ったんですか?

東京ですね。関西圏では、モノ(魚)もタイミングもバッティングするんで。東京で評価されて、関西の需要をあげようという作戦なので、まず東京で仕掛けていこうと。最初は大田市場に行きました。

おもしろい市場なんだよって東京の人に聞いて、築地のメガマーケットでなく、大田から行こうと。魚の発泡スチロール持って、漁青連の視察の付き添い的に行って、その影で向こうの担当者に「僕、魚を持ってきたんで見てくださいよ」ってのを最初にやりました。

── 入り込みやすい市場からという作戦がよかったんですね。

でも、大田市場では値段は思うようにはいかなかったですね。ただ、僕らの販売先のチャネルが増え、この先のきっかけはできたなあと。市場向けへのアプローチに加え、それまでもやっていた飲食店直接への営業に取り組んでいきました。

僕はどちらかというと飲食店向けの魚のセレクションとか荷造りをやっていました。窓口は僕で、オーダーが来て、僕が明石にいないときは、「銀座の○○さんは、これくらいの量で、魚はこの位置に置く」というのも現場の子に任せていました。

── オーダーメイドみたいに。

それは何人か言われましたね。そんな応えてくれるとこ産地にはないよって。

── なかなかないですよね! 漁協がやっているっていうのは本当にすごいことだと感じました。明石浦漁協は、セリが特徴的ですよね。ライブ感すごいし、水浸しだし。見るだけでもおもしろいのに、漁協自体が魚の買取をしているのが珍しい。

セリの3分の1以上を時には漁協が買い取ることもありますよ。水揚げ13億円のうち、5億5000万円くらい。ざっくり。

── 本来の漁協の役割以上のことをやっていると感じました。

他の漁協を知っている人がおっしゃるから、そうなんでしょうね(笑)。僕らは知らないから。

セリの現場での工夫

── セリのときも漁価の下落を防ぐために工夫されている?

買い手である魚屋さんの雰囲気と、漁師さんが持っている量というのをセリ人は考えていると思います。今日、手鈍いな、とか。イケイケやな、とか。感じながらセリをやっているんですよね。

── 簡単に言いますけど、普通は出来ないですよね?

都合のいい勝手な解釈とは思うんですけど、漁協が売る側だけでなく、買っている側にもいるから出来ることだと僕は思うんです。最後は漁協が手だしますから。若いセリ人だと、不安定になるんですよね。値付け感が。それは先輩が買う側に立って、フォローに行きます。

── へー!

例えば漁協の若い子がセリ人としてデビューするときに、突拍子もない値段を言ってしまうことがあったとします。普通なら2000円のモノに対して、テンション上がって5000円って言ってしまった場合とかそんなときには、漁協の先輩が買い手としてスッと入って、流れを作ったるってのをやるんですよ。

名刺ケースを魚に見立てて、セリでの値付けについて説明する宮部参事

── 魚の値段を下げすぎないためにやっていると聞いて、すごいと思ったんですけど、若い人たちの教育のためでもあるんですね。

先輩がフォローというかね、流れを作ってあげる。全部じゃなく、場面場面で。セリ人は今は2人ですけど、僕が入ったときは、4人もいたんです。大事な先発、中継ぎをベテランが務め、良い流れを作ったうえで、抑えを、覚えたての一番若い人が締めて場数踏むっていう。

── 買い取り側に漁協が入ること、最初は仲買人に色々言われたんじゃないですか?

いまだに言われていますよ(笑)。

── 仲買の人との交渉はどうしたんですか。

それをやってこられたのは先人たちですね。当時、買い付けの権利を仲買と話をして作ってくれたから今があります。どういうやりとりがあったのかまではあんまり分からないですけど。年間の買い取り制限はあったらしいです。でも結果的にモノが多いので、扱わざるを得なくて、年間の制限を超えていき、買取量が増えてきたという経緯ですね。

── 同じことをやっている漁協さんってないんですか?

水揚げされているものを箱詰めして市場に送ることをメインにされている漁協が多いんじゃないでしょうか。セリすら珍しくなってきましたって言われますね。

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