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聞いて、試して、やってみる。漁師たちの組織が変化の波を乗り越えられた理由

遊子の魚の美味しさをキッチンカーでPR

一方その頃、遊子漁協の女性部は岐路を迎えていました。

女性部はもともと、漁師の妻たちで構成され、1955年に発足しました。発足当時は250名を超える部員がいたものの年々減少し、活動は形骸化しつつありました。

「もともと海の清掃活動や廃油を使った石鹸づくりなどを行なっていたのですが、漁師さんのなかには廃業する人も出てきて、部員もなかなか集まらなくなってしまいました。活動に発展性がなかったんです」

そう振り返るのは、女性部の堀田洋子(ほった・ひろこ)さん。2016年から部長を務めています。

堀⽥さん:「組合長とも相談して、やる気のある人だけに残ってもらって、女性部としてもっと地域を盛り上げるような活動をすることにしました。私は(女性部と)同い年だから気合い入ってるの(笑)」
2008年に再始動した女性部は遊子で獲れる魚を使った料理を開発し、魚食の普及と地元遊子のPRを活動の主な目的とすることにしました。

漁協の一角にある調理場を借り、郷土料理をアレンジしたオリジナル商品を開発する日々。職員たちに「どれがいちばん美味しい?」と試食してもらいながら、試作を重ね、近くの道の駅などで販売しました。

そして2010年、「遊子の台所プロジェクト」を立ち上げ、より本格的に活動に注力していくことになります。そのシンボルとなったのは「キッチンカー」でした。

組合長の松岡さんが女性部の思いに賛同し、彼女たちを「遊子ブランド」の宣伝隊に任命したのです。

それまで自家用車で県内出張していた女性部のために、漁協としてキッチンカーを購入。遊子をイメージしたデザインで人々の関心を引くことにしました。

キッチンカーで県内のイベントや道の駅に出張し、鯛めしをたい焼き型で焼きおにぎりにした「たべ鯛」やブリの照り焼きを使った押し寿司「照りてり寿司」など、考案したオリジナル料理の販売を実施。

一時は参加イベントが年間50回を超え、売上は900万に上るほど。県外からも出張依頼をもらうなど、引っ張りだこになりました。

そしてその活動が評価され、「第17回全国青年・女性漁業者交流大会 地域活性化部門 農林水産大臣賞」、「第51回農林水産祭 水産部門 内閣総理大臣賞」など、数々の賞を受賞。「遊子」の名前を全国にアピールする機会となったのです。

いまは16名の部員が無理なく続けられる範囲で食育ボランティアやイベント出張を行い、多いときには1日1000パックもの鯛めしを製造するなど、地域貢献と魚食普及活動を続けています。

堀⽥さん:「2018年の西日本豪雨で(宇和島市)吉田町が被害を受けたでしょう? あのとき、避難所に鯛めしを700パック持っていったの。夜2、3時から仕込みをはじめたり、睡眠2時間でほとんど寝られなかったり......。

みんないろいろと大変なことはあったけど、これまで10年やってきたことは間違ってなかった。それをやり切るだけの力をつけられてよかったなぁ、って思いました。普通のおばちゃんじゃないでしょ? 能力があるのよ(笑)」

遊子ブランドを発信して、いつまでも「子どもが遊ぶ」地域に

こうして、漁協としては前例のなかった「養殖魚のCAS冷凍加工」を実現し、「遊子ブランドの発信」で遊子の魚の美味しさを伝えてきた遊子漁協。

現在では加工販売の割合が全体の1割を超え、その売上も年々伸長しています。

宇和島市のふるさと納税返礼品に遊子のマダイを使った「宇和島鯛めし」が採用されるなど、マダイの生産高日本一の愛媛県を代表する産地になっています。

松岡さん:「何度となく赤字になりそうなときもあったけど、この数年はある程度地域貢献できるようになった。職員の給与も毎年、ベースアップしてるんですよ。別に漁協として儲からなくても、組合員や働いている職員に還元できたらいい」
遊子漁協の取り組みは、時代や環境の変化に直面したとき、情報を収集して仮説を立て、試しにやってみながら顧客ニーズを検証し、ある程度見込みが立った段階で設備投資する──。

まさに「新規事業開発」を成功させる鉄則に則ったものです。なぜ愛媛の片隅の、穏やかな漁港に暮らしながら、そんなことが実現できたのでしょうか。

松岡さん:「東京の取引先なんかに行くと、みんな30代の若い人たちばかりなんですよ。年寄りもおらんし、こっちと全然違う。そんな人たちに負けないように話題を作らなアカンし、知識つけないかんからね(笑)」
ただ、遊子のいまは、そう明るい話題ばかりではありません。5年前には地域の中学校が廃校となり、家族で中心市街地へ移り住む人も増えてきました。

遊子漁協の組合員(養殖業者)も一時の200名余から50数名へと減少。後継者問題も切実な課題です。そんななか、遊子漁協はどんな未来を思い描いているのでしょうか。

松岡さん:「もう少し加工の販売力を上げて、2割くらいにしたい。そうすれば原魚(未加工の魚)も売れやすくなるだろうし、『遊子』の名をもっと知らしめられる。本当の意味で消費者に支持されるブランドになってほしいんです。

とにかく、地域が元気になってほしい。本当はここに直売所を作りたいし、加工場も拡大したいと思ってる」

堀田さんも言葉を続けます。「小学校で給食実習に行くと、みんな喜んでくれて、本当に嬉しいんですよ。ほら、『遊子』って『遊ぶ子』って書くくらいだから、やっぱり子どもがいちばんやもんね」

松岡さん:堀田さんも言葉を続けます。「小学校で給食実習に行くと、みんな喜んでくれて、本当に嬉しいんですよ。ほら、『遊子』って『遊ぶ子』って書くくらいだから、やっぱり子どもがいちばんやもんね」

取材・⽂:⼤⽮幸世
 Twitter: @saci_happiness
 Facebook: saci.happiness
撮影:⽊村孝
 Facebook: kou.kimura.12
 Web: http://kimurakou.com/
編集:くいしん
 Twitter: @Quishin
 Facebook: takuya.ohkawa.9
 Web: https://quishin.com/
記事提供元:Gyoppy! (ギョッピー)

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