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養殖業の成長産業化に向けた取り組み

水産政策の改革の動き

昨年6月、政府として決定した「水産政策の改革について」は、水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させ、漁業者の所得向上と年齢バランスの取れた漁業就業構造の確立を目指すものです。これを実現していくためには制度見直しや予算措置等が必要となるわけですが、先の第197回国会(臨時国会)において、「漁業法等の一部を改正する等の法律」(以下「改正漁業法」)が成立し、これを支える来年度政府予算における水産改革関連予算についても、補正予算を合わせると3000億円を超える大きなものとなりました。

改正漁業法における養殖・沿岸漁業(漁業権制度の見直し)のポイント

改正漁業法においても、漁場の円滑な利用等のために不可欠な漁業権制度は当然に維持されます。一方で人口減少や高齢化が進む中、地域差はあるものの利用されない漁場が出てきており、どうやって浜を存続させられるかが課題となっています。このため、改正漁業法では、漁場利用や資源管理のルールを順守した養殖や操業を行っている既存の漁業権者の漁場利用を安定確保しながら、利用されない漁場については、協業化や地域内外からの新規参入を含め漁場の総合利用を図る仕組みとしています。また、新たな漁業権を免許しようとするときには、混乱が生じないよう、県知事はその水域を利用している漁業者や関係JF等の意見を聞いて、他の漁業への影響などを考慮することとされています。

改正漁業法における養殖・沿岸漁業(漁業権制度の見直し)のポイント

水産政策の改革において、養殖業の成長産業化は重要な位置付けとされており、今後国は養殖業発展のための環境整備に本格的に取り組むこととしています。

具体的には、①国内外の需要を見据えて戦略的養殖品目を設定するとともに、生産から販売・輸出に至る総合戦略を立てた上で、養殖業の振興に本格的に取り組むこと、②技術開発については、魚類養殖経営のボトルネックとなる優良種苗・低コスト餌料等に関する技術開発・供給体制を強化すること、③国際競争力のある養殖を育成するため、実証試験等の支援を拡充すること等が掲げられています。

これらを実現していくためには、適切な制度運用と相まった予算措置が重要となります。このため、来年度政府予算案では養殖業成長産業化推進事業(4億200万円〈前年度比147%〉)において、生産から販売・輸出に至る官民の関係者が一体となって取り組む枠組みの構築への支援、低コスト・高効率餌料、優良種苗等の開発など、養殖生産の三要素である餌・種苗・漁場に関するボトルネックの克服等に向けた技術開発・調査について実施することとしています。さらに、先端的養殖モデル地域の重点支援(漁業構造改革総合対策事業51億900万円の内数〈新規〉)では、養殖業の成長産業化に向けて、前述の官民の関係者が一体となって取り組む枠組みにおいて、新養殖システムの技術認定や戦略的養殖モデル地区が認められた場合、大規模沖合養殖システムの導入や新技術を用いた協業化の促進による収益性向上のための実証等の取り組みを重点支援することとしています。このほか養殖用生餌供給安定対策支援(平成30年度補正:広域浜プラン緊急対策事業漁業収入安定対策23億5000万円の内数)を確保するとともに、漁業経営安定対策(漁業収入安定対策、漁業経営セーフティーネット構築事業等)についても円滑な事業実施に支障がないよう措置されています(紙面の都合上、漁船漁業と同様に養殖業も活用できる事業は割愛しました)。

おわりに

以上、養殖業に関連する水産政策の改革のポイントについて記述させていただきました。今後、改正漁業法の政省令等の制度運用について、現場と意見交換しながら検討されることとなります。また養殖業については、生産から販売・輸出に至る関係者や有識者の意見を踏まえ、戦略的養殖品目の設定や、内外の需要に見合った秩序ある生産を確保しつつ養殖業を成長産業化し持続可能な産業構造とすることを目指して総合戦略の策定に取り組むこととしています。さらに本年は、漁業収入安定対策の機能強化と法制化の検討も始まります。

水産政策の改革は始まったばかりです。引き続き関係者の御理解と御協力をよろしくお願いします。

執筆:黒萩真悟(水産庁増殖推進部長)

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