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製氷・貯氷施設の統廃合はなぜ進まないのか?―漁協事業の課題解決に向けて―

3.施設統廃合の実施状況―統廃合履歴ありの漁協はなお少数にとどまっている―

筆者が所属する農林中金総合研究所では、以上のような特徴を有する漁協の製氷・貯氷事業につき実態を把握するため、2020年に全国の漁協に対して「漁協アンケート調査」を実施した(一県一漁協は支所含む)。以下では、施設統廃合に関する部分を中心にアンケート調査の結果を要約して紹介する。

第一に、統廃合の履歴がある漁協は、14.2%と少数であった(回答353組合中50組合)。経営課題として長年掲げられながらも、その実例はなお少数であることがまず確認されるべきであろう。

第二に、実施済みの統廃合については、ここ5年以内に行われたケースが多かった(48組合中26組合)。この点は、現行の施策である「浜の活力再生プラン」や「浜の活力再生広域プラン」に基づいた統廃合が一定数あることを推察させる。

第三に、統廃合のきっかけとして、約半数の漁協が「既存施設の破損・老朽化」を挙げていた(50組合中24組合、図2)。また、統廃合の実施のメリットとしては、コスト削減に関係した「守り」の効果を挙げる漁協が多く、それに比べて利用の増加や付加価値向上といった「攻め」の効果を挙げる声は多くはなかった。(図3)。統廃合は積極的に取り組まれるものではなく、破損や老朽化といった何らかの対処をせざるを得ない状況に至って消極的に選択される対応であると考えられる。

(図2)統廃合のきっかけ(複数回答)
出所:株式会社農林中金総合研究所『2020年度漁協アンケート調査』(以下同)
(図3)統廃合の効果(複数回答)

第四に、統廃合の履歴のある漁協の製氷・貯氷事業の事業利益は、履歴なしの漁協の事業利益より良好な傾向にある。具体的には、「統廃合履歴あり」漁協については、事業利益は黒字傾向との回答のほうが赤字傾向との回答よりわずかに多く(それぞれ33.3%と29.2%)、他方で「統廃合履歴なし」漁協については、黒字傾向26.4%に対して赤字傾向42.7%と赤字傾向が明確に上回っていた(表1)。

(表1)事業利益の動向と統廃合の有無の関係(単位 上段:組合、下段:%)

第五に、事業利益や施設の状態等について課題を抱えている漁協は多いが、一方で現状からの状況変化を予定している漁協は少ない。今後の統廃合の計画について、「当面予定なし」と回答した漁協が多数を占めていた(回答360組合中265組合)。

第六に、事業の成績が悪いからと言って統廃合が積極的に計画・検討されているわけではない。逆に、事業利益が黒字の漁協も、しばしば統廃合を計画・検討している(表2)。また、統廃合履歴のある漁協が追加の統廃合を計画・検討している場合もある(表外)。

(表2)今後の統廃合の計画と事業利益の関係(単位 上段:組合、下段:%)

4.おわりに―施設統廃合以外の可能性の模索―

製氷・貯氷事業は、事業利益の赤字を基調としており、また水揚量に影響を受けやすく、施設利用型の事業であるために、水揚量と取扱高の減少に見合った形で費用を低減させにくい高コスト構造を内包している。そうであるが故に施設統廃合が必要であるとされ、漁協系統自身も「自立漁協」体制の確立を目指して、漁協合併と一体的に施設統廃合を推進してきた。

しかし、本アンケート結果によると、統廃合履歴ありの漁協はなお少なく、その実施理由も「既存施設の破損・老朽化」を理由とした消極的なものが多い。特に多数を占める施設所有・利用数が1基のみの小規模漁協においては、組合員の利便性のために事業を廃止するわけにはいかないことから、漁協合併が困難であるとすると、赤字のまま現状維持を選択せざるを得ない場合が多い。これが施設統廃合が進まない基本的かつ最大の理由であると考えられる。また、水揚量が減少傾向にある中で、統廃合は必ずしも事業利益の改善をもたらすとは言えない。

今後も施設統廃合を計画的に進めていくことはもちろん不可避であろう。しかし、統廃合を実現することの難しさや地域漁業を支える協同組合事業としての製氷・貯氷事業の性格を踏まえるなら、施設統廃合以外の可能性を模索する必要もある。例えば、複数地域間での氷供給網の構築や、外部条件次第だが専門業者等からの氷購入への転換といった方法も条件次第では選択肢として浮上するだろう。将来不安に起因する面が大きいと考えられる現状維持状態を克服し、かつ、地域的連帯と経営合理化を矛盾しない形で両立するための方策が、政策設計、現場での適応の双方の次元において引き続き求められていると言える。そしてこの実践に当たっては、「浜の活力再生プラン」や「浜の活力再生広域プラン」が地域漁業振興計画として有効かつ適切に立案・実行されることが期待される。

※本記事は、株式会社農林中金総合研究所『2020年度漁協アンケート調査』、
 農林金融「漁協による製氷・貯氷事業の実施状況に関するアンケート結果の分析」の内容の一部を要約したものです。

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