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72歳の発明が「そんなことできない」を打ち破った。海に変化をもたらす革命
「獲る漁業」から「管理漁業」へ
── AquaMagicが広がることで、海の未来にどんないい影響があるんでしょうか。
今までは「獲る漁業」と言われていましたが、これからは「見守る漁業」、「管理する漁業」に変わっていくでしょう。「管理」と言うと締めつけのように聞こえるかもしれないけれど、つまりは「自己管理」ですね。年々、日本の漁獲量が減っている中で、管理する漁業への変化は、必要不可欠なことなんです。
最近では、すべての漁船に魚群探知機はついているから、魚群はこれまでも見えてたんですけど、見えた魚がアジなのか鯛なのか、魚の種類やサイズは正確にわからなかった。
AquaMagicのことを「水中可視化装置」と言っているんですけど、水中の状況がわかれば、獲り過ぎや、お金にならない魚を獲ることを減らせるので、管理する漁業が実現に向かっていきます。

たとえば定置網だと、陸から遠いところにあるから、行ってみないと本当のところ魚がどれだけ入っているのかわからない。行ってみたら全然魚がいなくて、人件費も氷代もガソリン代も全部ムダになっちゃったみたいなことも避けられるようになる。
養殖も、表面上の魚は見えますけど、フタを開けてみたら相当数へい死してしまっていて、でもそのことに気づかずに餌を与えてしまうといった問題もあるんです。養殖は餌代がコストの7割と言われている。水中が可視化されると、給餌コントロールもしやすくなります。
── 水産資源の管理や、コスト削減に直接的に貢献できるんですね。
そうなんです。さらにAquaMagicでは5mmのプラスチック片まで映るので、海中のプラスチック現存量もわかるようになると思うんです。すると環境問題にも、この機械が使えるんじゃないかと考えています。
今までも、海水の表面上で大まかに調べることはできていますが、海全体のプラスチック現存量がわかっていないんです。水中を可視化できれば、いまだ謎の多い海底の秘密を探れたりだとか、それに付随して海の環境面に寄与する事業を展開できる余地もあります。
海に恩返しがしたくて
── 笹倉さんの開発のモチベーションはどこからきているんでしょうか。
僕は水産業を主に海洋開発やイルカの研究をしてきました。海に関わる仕事を50年も続けて生きてきたので、お世話になった海に対して恩返ししたいという思いがあります。
海が好きな人、子どもって、減っているんですね。だから、こういう夢のあるおもしろい仕事をして、小学生とか小さな子どもたちがもっと海に関わったり、海を好きになったりすることに貢献したいんです。

── 「海への恩返しをしたい」というのが、根本にあるんですね。そのなかで、笹倉さんが持っていらっしゃる技術を生かしていらっしゃる。
結局、我々エンジニアにできるのは、作った機械やソフトを教育の場で使ってもらったりすることで、海へ関わる人を増やすことくらいだと思うので。特許を取っただけでは、全然社会に貢献しないんですよね。
特許を実践するという舞台があって初めて社会に貢献できる。そういう思いで、僕は自らやろうと、2017年に新たに会社を作りました。今、72歳。残り少ない人生なのでね、ぼやぼやしてられないっちゅうことで。

── わあ、すごいバイタリティですね。
それで今ね、実は沖縄の魚の音をいっぱい集めているんですけど。
── 魚の音!?
魚って結構鳴くんですよね。一部、クマノミとか有名なのもあるけど、スズメダイとか、フグなんかもブーブーって鳴く。その鳴く音を集めて、音だけで何が鳴いているか、何匹いるかを推定しようという研究も別で行っているんです。海のことを音で知ろうと。水族館でイルカがショーをするときに、ピューピューとか鳴いたりしているように、彼らも会話をしているんですよ。
── また新たな研究も行っているなんて驚きでした。それにしても、笹倉さんのお話にはイルカがよく登場しますね。
彼らは人間よりも昔から音を使っているから。彼らのほうが遥かに進んでいるんですよ。たぶん、イルカにインタビューをすると、「人間もやっと『AquaMagic』とかいう機械を発明したらしいで」くらいは話をしているだろうと思っていますよ。
── あはは!(笑)。イルカが見ている世界はもっとクリア?
もっともっとクリア! 僕ら人間はイルカのように音を見ていません。聴いているだけ。「音で見る」っていうのは、非常に感覚的にわかりにくいんですけど、魚群探知機は音を“見て”いるんですね。魚群を、または魚体の1匹1匹を。
その点で言えば、イルカは僕らのはるか先を行く大先輩。僕ら人間がイルカにたどり着くには、あと2万年くらいかかるかもしれません(笑)。

文:服部 木綿子
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撮影:奥 祐斉
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取材・編集:くいしん