ビジネス

33歳IT社長が「知識ゼロ」「漁師の知り合いゼロ」から取り組む漁業のDX

船長さえも「わからない」無線でのやりとり

ISANA公式サイトより

── でも、すぐにその課題を解きには行かずに、ISANA事業を始めるわけですよね?

ゆくゆくは業界自体の構造を適正にすることにも貢献していきたいんですけど、外から来た人間がいきなりそこをやるのは、ものすごく難易度が高いんです。まずは川上にいる漁業者さんたちと仲良くなって、彼らと一緒にやっていく必要があるだろう、と。

なので、最初は完全に漁業者さんだけに絞って価値提供することにしました。なおかつ、僕らとしても最初のビジネスを作らなければならないから、漁業者さんの中でもわりと規模が大きめで、業界内でのインパクトも大きい、巻き網漁や船曳網漁を行う船団の業者さんをターゲットにして。

本当にいろんな人とお会いしましたし、船にも乗せてもらって、実際の操業のオペレーションを見せていただいたりもしたんですが、その中で見つけたのが、僕らが「コミュニケーションの課題」と呼んでいるものでした。

── コミュニケーションの課題?

巻き網漁や船曳網漁の漁業者さんは通常、複数の船で船団を組んで漁に出ます。船団の中には、どこに魚の群れがいるのかを探す専門の「探索船」が何隻かいて、本船の船長は、それぞれの探索船から集められた情報を集約して、どこに網を張るのかを判断する。

でも、この情報のやりとりが実際にはうまくいってないことも多いんですよ。各船の連絡は無線を使って行うんですが、音が割れまくっていて、何を言っているのか僕らにはまったく聞き取れない。素人の僕らが聞き取れないのはまあ当たり前ですけど、「いまのはなんて言っているんですか?」と聞いてみたら、漁師のおじさんも「わからん」って。

── わからないんだ(笑)。

そうなんです。だったら僕らにも手伝えることがありそうだな、と。

そこからヒアリングを重ねていったら、たとえば各船の魚群探知機の反応だったり海の状況だったりを即座に見られれば便利なのに、というニーズがあることがわかってきました。

── なるほど。それがのちのISANAへとつながっていくわけですね。じゃあ、ISANAのアイデアを話すと、漁師さんたちの反応は最初から上々だった?

「これだったら金払うよ」と結構スパッと言ってくれましたね。

資源保護への寄与をあえて打ち出さない理由

── すでに200以上の船団で使われているそうですけど、ブレークしたポイントはなんだったんですか?

やっぱり一番多いのは、ISANAを使い始めて売上が上がったという人。あとは、燃料代を抑えられる点にメリットを感じてくれている人もいます。

これまでの漁って、仲間がすでに探索したエリアに、1時間後にまた別の船が行ってしまうといったロスも多かったんです。でも、ISANAを使えば、各船がどこを探したかの履歴がすべて見られるから、魚を見つけるまでの時間と走行距離が減って、その結果、燃料代も下がる。

ほかに、すべての操業の記録が残るから、そのデータをもとに漁の振り返りをしたり、息子さんに渡すことで後継者育成に活かしたりという人もいらっしゃいます。

── 現状はリアルタイムで情報を共有することで判断の精度を上げる手助けをしているわけですけど、今後データが蓄積していけば、そこにAIを噛ませることで、判断自体を自動化することも?

そこまでいけたらいいなとは思ってます。でも、現状で僕らが考えているのは、どちらかといえば、資源管理や資源保護につなげる方向性で。

── どういうことですか?

「どの船が」「どんな魚を」「どこの海域で」「どれくらい獲ったか」って、これまではわからなかったんですよ。なぜってデータがなかったから。市場ごとの水揚げのデータはありますけど、それも海域ごとじゃないので。

── 海洋日誌みたいなものがあるのかと思ってました。

ああ、手書きの日記はたしかにありますけど、それも電子化されていないから、分析には使えない。ISANAはそういうものをすごく簡単に記録できる仕組みも一緒に提供しているので、この記録を使って水揚げから最終消費地に到着するまでの漁獲・流通データを確認できるトレーサビリティシステムを他社と共同開発しました。

さらに、将来的にはこれをベースに、水産庁が進める「漁獲報告の電子化」政策に寄与するとか、関係団体と連携して資源を評価したり、いまどれくらい魚を獲っていいのかを分析できたりする仕組みなんかも作っていきたいと考えています。

日々漁師さんと話をしていると、自然と「こういうデータが取れているね」という話にもなるじゃないですか。そのタイミングで資源保護の話をすると、最初はいい顔をしなかった人でも、「実際に魚は減っているわけで、こういうものを使ってなんとかしないといけないよね」みたいな話をしたりもするんですよね。

なので僕らとしても「もしかしたら本当に意識変革にまでつなげられるのかも」と希望を感じながら、日々やっているところがあります。

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