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「どうすれば〝漁師〟で生活ができるのか―」家庭内6次化を確立

家庭内6次化を確立
〝漁師〟で生活を続ける

「どうすれば〝漁師〟で生活ができるのか―」。

千葉県JF銚子市漁協の小型底びき網船・石井丸を所有する㈱石井丸の石井勲社長は、限られた漁期や魚価安で収益を確保できず、次々と僚船が減る中で何十年もこの課題と向き合い、試行錯誤を繰り返してきた。

一つの答えとして、自船で獲った魚を家族で加工、販売する6次化を確立。
現在は息子らに沖の仕事を任せ、自身は陸で奔走する生活だが「日々、進化している」と胸を張る。

原料の買い付けから販売まで奔走する石井勲社長

石井丸は昨年3月、国の「浜の担い手漁船リース緊急事業」を活用して代船建造を行った。
実に37年ぶり。「沿岸の小型船が使いやすい制度で、決断することができた」と振り返る。9・7㌧の新船には漁獲物の高鮮度保持を狙い、魚倉に冷却装置を設置した。
「鮮度が格段に上がった。特にタイやホウボウの赤色が映え、高値で売れる」と、導入効果を喜ぶ。

18年3月に竣工した新・石井丸

ただ、銚子沖を漁場とする小型底びき網漁船は6~8月の3か月間が休漁になる。その間は、異なる漁業種の船に雇ってもらうか、陸の仕事に就く以外に収入がない。
とはいえ、働ける場所は年々少なくなっている。最盛期に40隻あった銚子の小型底びき網船は現在、6隻にまで減少した。

魚価安も悩みの種だ。9か月の漁期だけで1年の生活を賄えない。
「このままではじり貧だ」と奮起し、2000年末から加工に着手。親戚が経営する量販店を頼り、土曜日に干物の手売り販売から始めた。

自ら獲って加工、販売

石井丸の干物には、冷凍原料を使わない。水揚げの一部をすぐに処理して干し上げ、自船で獲れないキンメダイやサバなどは買い付ける。
使うのは純水と天然塩だけ。魚種ごとの下処理や塩水に漬け込む時間などを幾通りも考え実践、比較して現在の姿に行き着いた。

新・石井丸での作業風景

量産はできず、シケになればお手上げだが、「石井丸の干物が欲しい。魚が揚がるまで待つ」との声が支えになった。
15年に法人化した後、常設販売店「石井丸干物店」を開業。
現在は銚子市のふるさと納税の謝礼品にも採用される、市を代表する産品に成長した。漁師仲間が〝手土産〟として石井丸の干物や佃煮を買い求めるそうだ。

銚子市のふるさと納税謝礼品にも採用されたキンメダイの干物

6~8月は敷地内に簡易食堂を開く。この時期は手のひら大のイワガキが人気で、干物と一緒にその場で焼いて食べられる。
目の前は海水浴場で、夏休み時期は子供連れの家族が一日楽しめる観光名所になっている。

漁期外でも収益を確保

15歳の時から50年以上乗り続けた船は、15年5月末の漁期を最後に下りた。
現在は長男の宏明さんと三男の聡さん、弟の豊さんの3人に漁を任せ、自身は妻のつや子さんや乗組員の家族らと加工販売に専念する。

銚子市内に開業した販売店「石井丸干物店」

限られた漁期と不安定な魚価に、「生き残りをかけて始めた」という陸の仕事は、女性と船を下りた乗組員に雇用の場をつくった。
「やっと今の形までこぎ着けた」と話す口調は、安堵(ど)の声とも異なる。むしろ次の一手の話題が心地よさそう。「今?楽しいね」と目を細くして笑う。

出典:水産経済新聞

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